研究課題/領域番号 |
25770107
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
長瀬 真理子 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (80636506)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 17世紀劇作出版編集 / 不明印刷者特定 / 印刷出版業者ネットワーク / ウィリアム・ウィルソン |
研究実績の概要 |
27年度は前年度までに英国の稀覯本図書館で収集した資料を基に引き続きウィリアム・ウィルソンの無記名印刷物5作品に関する論文の執筆を行った。執筆を行う過程において新たに確認の必要が生じた古版本については、他大学よりファクシミリを取り寄せて対応した。また、論文中、証拠として提出することが必要な写真についても、新たに20点を英国の肖像図書館より取り寄せた。本論考については、当初の計画より調査対象となる古版本数が増えたため、収集した証拠資料も膨大化し、その結果、分析と整理にも時間を要することとなった。27年度中に欠損活字と欠損した意匠および印刷紙の同定に関する議論を9割完了したため、残り1割のまとめの作業に正味一月かけ、peer-reviewを経て国際誌上で発表の運びをつける計画である。ウィルソンの無記名印刷物特定は、17世紀劇作編集の発展過程を解明する上で、当該印刷者がその一員として職務を果たした印刷出版業者グループによる編集活動の解明を行う上で基礎となる。しかし、不明印刷者の特定は特定作業の困難さから書誌学界においても敬遠される傾向の高い分野であり、1冊でも特定に成功すれば学界に貢献できる。27年度の研究成果は、前年度までの調査で印刷者特定の可能性が見込めた5作品について、活字の欠損部位の分析等から確証をもって結論に至ったことと、これを論文としてまとめたことである。発表については残念ながら来年度の報告となる。 加えて、27年度後半より、申請当初の計画にはないシェイクスピア・セカンドフォリオに確認される文学編集に関する調査にも取り掛かっている。本調査は26年度に成果の得られなかったウェブスター及びマーストン作品の古版本調査に代わり1630年代における劇作編集の過程を解明する手懸かりとなることが期待される。調査結果は28年度の学会において発表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画より調査対象となる古版本数が増えたため、収集した証拠資料も膨大化し、その結果、分析と整理にも時間を要することとなった。前年度までの調査で印刷者特定の可能性が見込めた5作品について、確証をもって特定に至る過程の論考に調査と同程度の時間を要したことによる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにも17世紀イギリス劇作出版における文学編集確立の歴史について調査する過程で、目的達成のために申請当初の計画書には含めていない印刷者の無記名印刷物特定の必要性を認識し、研究計画の変更を行った。このため計画自体には遅延を生じたが、計画の変更は目的を達成するための土台を築くために不可欠であったと考えている。このように、研究目的の達成において必要な基礎的調査は回避せず臨機応変に取り組む方針である。28年度には26年度の調査において期待した結果の得られなかった1630年代の出版物(調査対象は異なる古版本)の調査に再び取り組む計画である。26年度前半の調査で期待していた成果が得られなかった要因は計画書に記載した作品に囚われすぎたことにあるため、今回は印刷出版業者のネットワークを調査の軸として、残された時間が許す限り、研究対象とする印刷出版業者が関与した出版物をできるだけ多く横断して調査することに努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度の計画変更により、申請当初は計画になかった無記名印刷者の特定を遂行したことにより、想定外の成果は得られたものの計画に遅延が生じた。また、当初は出資出版者主導の読本編集に着目し研究を進めてきたが、上記の計画変更により、印刷者主導の編集も調査対象として含めることとした。28年度には、申請当初調査対象としていなかったシェイクスピア・セカンドフォリオに確認される編集について論考をまとめ、学会で発表することを予定している。
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次年度使用額の使用計画 |
論文に掲載する古版本写真の出版許可料と投稿費、および28年度に予定しているシェイクスピア・セカンドフォリオと関連古版本の調査費(複写費等を含む)として使用する計画である。
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