28年度は計画を変更し、当初計画に含めていなかったシェイクスピア・セカンド・フォリオ(1632)に確認できる文学編集の形跡について調査を行った。本調査の途中経過については、2016年10月のシェイクスピア学会セミナー、‘The Second Folio Revisited’(コーディネーター:住本規子明星大学教授)で発表した。シェイクスピア・セカンドフォリオについては、申請書にも記した通り、Black and ShaaberのShakespeare’s Seventeenth-Century Editors (1937)によって、第三版、第四版とともにテクスト校訂が網羅されている。校訂の中には、誤植の修正に留まらない文学的意図を含む修正箇所が存在していることも報告されたが、誰が、どのような目的でそのような編集を行ったのかという謎については解明されていなかった。本研究では、Black and Shaaberによって「恣意的」と判断され、これまで追求されることのなかった音響効果のト書きの削除が、ベン・ジョンソンをはじめ、その劇作編集手法を継承した筆写者、レイフ・クレインによって採用された編集指針に則った編集であることを論証した。 テクスト校合には、これまでに英国の稀覯本図書館で収集したデータベース資料および国内他大学図書館に依頼したファクシミリを用いた。セカンド・フォリオ出版に関わった印刷出版業者の作品調査は夏季休暇に国立国会図書館でEEBOを用いて行った。この後本学にもEEBOが導入されたことでテクストに関する調査は遥かに効率化できるようになった。また11月には、明星大学の住本規子教授のご指導の下、貴重図書館でシェイクスピア・フォリオの第一版から第四版まで複数のオリジナルコピーのテクストの差異について学会セミナー発表者の先生方とともに調査と議論を行う機会にも恵まれた。
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