本研究は、既存のアメリカ核文学の枠組みをより幅広く多角的な文学的枠組みへと再構築するため、核・原爆問題を取り入れた北米先住民作家の作品を中心に、ポストコロニアル理論やエコクリティシズムの観点から検証した。25、26年度は、レスリー・マーモン・シルコーの小説やマリルー・アウィアクタの詩を、地理的・歴史的・社会的背景から調査し、冷戦時代におけるアメリカ南西部とニュークリアリズムという視点から解読をおこなった。また、これまでアメリカ核文学研究において見過ごされがちであったテーマや視点を明らかにするために、既存の北米アメリカ核文学をテーマごとに分類・分類する作業を行い、この過程において日系アメリカ文学やアフリカ系アメリカ文学における核・原爆表象を検証することの重要性を確認した。最終年度は、以下の三つの内容について研究・調査を行った。(1)1970年代にパインリッジ居留地で起こったAIMメンバーとFBIらの抗争を、ウラン鉱山の問題と絡めて追求したピーター・マシーセンの文学作品やバフィー・セントメリーの楽曲に注目し、ウラン鉱山と「検閲」の問題を考察した(2)日系アメリカ人・カナダ人作家による核・原爆表象を検証するため、ジュリエット・S・コウノ『暗愁』、ジョイ・コガワ『オバサン』、小田実『HIROSHIMA』を比較し、作家によって「再生」される日系被爆者の身体の問題を検証した(3)アフリカ系作家による反核思想や原爆表象の調査を開始し、ラングストン・ヒューズの短編小説における原爆表象を人種や環境問題と絡めて分析した。これらの研究成果は、ASLE-US大会、エコクリティシズム研究学会、中四国アメリカ学会等で発表を行った。また、最終年度は、北米先住民作家による核のナラティヴの研究をまとめ、出版するための準備に着手した。この作業は28年度現在も継続中である。
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