研究概要 |
平成25年度においては、1300年頃にミラノのフランシスコ会士ジャコモが書いたとされる、キリストの受難についての瞑想の書である "Stimulus Amoris" (『愛の刺』) を転写する作業を行ってきた。"Stimulus Amoris" のラテン語テクストを作成するそもそもの理由は、16世紀末の写本を底本としているペルティエのエディション (1868年) 以来信頼に足るエディションが編纂されていないからであるし、そして、このラテン語宗教書の中英語翻訳である "The Prickynge of Love" の底本となった可能性の高いラテン語写本から編纂したエディションを作成することで、中英語翻訳がラテン語原典をどのように加筆・修正しているかをより正確に研究するためであった。 本研究においては、中英語翻訳 "Prickynge" の底本となった可能性のあるラテン語写本として、7つの写本を挙げ、これらのうち差し当たって2つの写本、すなわち Cambridge, Corpus Christi College, MS 252 および MS 137 からの転写作業を進めてきた。これは、これら2つの写本が "Parker Library on the Web" というデータベースによって、日本にいながらオンライン上で参照することが可能だからである。 ところが、これら2つの写本を使用しながら研究を進めるにつれて、CCCC 252 も CCCC 137 も、中英語翻訳者が底本とした写本ではない可能性が高くなってきた。つまり、中英語翻訳 "Prickynge" は、これら二つのラテン語写本よりもむしろ、ペルティエの底本 (16世紀末) につながる写本の伝統により近いことが分かった。今年度以降は、残りの5つの写本に関して、イングランドの各図書館で実地に精査する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後はイングランドのオックスフォード大学ボドリーアン図書館および大英図書館が所蔵するラテン語写本を調査しなければならないため、それまでには CCCC 252 および CCCC 137 の転写作業を完成させるつもりである。 イングランドの現地調査で参照予定の写本とは、(1) London, British Library, MS Royal 7. A. 1; (2) London, British Library, MS Royal 8. B. 8; (3) Cambridge, Trinity College, MS B. 14. 7; (4) Oxford, Bodleian Library, MS Digby 58; (5) Oxford, Corpus Christi College, Cod. 240 の5写本であるが、本年度はロンドンの大英図書館が所蔵する2写本に集中し、転写したラテン語テクストとの異同を調べる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度の交付金30万円は、"Parker Library on the Web" というオンライン上のデータベースの閲覧費に当てる予定であったが、これは米ドルでの支払い (3,500ドル) であったため、為替相場の影響を常に受けており、事前のその正確を厳密に確定することは困難であった。このため、2,543円が残ってしまったのだが、この額では研究書などを購入することもできなかった。 残額の 2,543円は、26年度の物品購入費 (図書) の一部として使用する予定である。
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