研究課題/領域番号 |
25770116
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
木谷 厳 帝京大学, 教育学部, 講師 (30639571)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 英文学 / ロマン主義 / 詩 / 唯美主義 / 感受性 / 情動 / 形式 / 批評理論 |
研究概要 |
研究初年度(平成25年度)は、おもに以下の点に関して成果が得られた。 (1) イギリス・ロマン派詩人シェリーの感性の詩学を「美的=感性的なもの」(the aesthetic)という観点から再び整理することを本計画の出発点とした。超感性的な理想美(純粋な美そのもの)への憧憬という詩的特徴のために、概して抽象的・観念的で実体に乏しいとされてきたシェリーの詩が、実際には五感に訴えかける感性的なイメジャリを詩想的源泉および詩作的推進力としていたという説を、一次資料の精読を通じて示すことを試みた。そこで、シェリーの詩的創造における根本原理としての「感性の詩学」を想定し、このなかに、到達不可能な超感性的美に接近するために心身の感(受)性を極限まで駆使し苦闘しながらも、その苦境的な経験すら享受してしまうという意味において、詩作という創造=想像行為にともなう快楽の過剰(享楽)をめぐる感性のダイナミズムを見出した。これをもとに、恋愛詩『エピサイキディオン』(1821)におけるいくつかの詩的モティーフの連関について学会で発表し、詩の新解釈を提示した。 (2) 同時に、シェリーの詩学との接点を持ちうる19世紀の唯美主義に関する一次・二次資料の調査に努めた結果、いくつか興味深い事象にも突き当たった。そこで、これらの発見の一部にもとづくテーマで研究発表をある国際学会(次年度開催予定)に申請した結果、受理された。 (3) (2)と並行して、現代における「美的=感性的なもの」をめぐる最新の研究動向を知るために先行研究等の文献調査をおこなった。とくに、かつて文学批評家ポール・ド・マンが提示し、現在も批評的関心を集めている「美学イデオロギー」(aesthetic ideology)の問題系を中心に文献を収集し、整理した。次年度には、この調査結果の一部を踏まえた論考を収録した書籍(共著)が出版される見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画通り、初年度は、シェリーの感性の詩学を「美的=感性的なもの」(あるいは「美学的=感性学的なもの」)という観点から再び整理することを出発点とし、この詩学と直接関連すると思われる19世紀イギリスの唯美主義に関する資料、さらには現代における「美的=感性的なもの」をあつかう最新の文献の調査に努めた。その結果、シェリーの感性の詩学に関連する学会発表をおこなうことができた。さらに、次年度には、これに関連するテーマの研究発表(国際学会)や書籍(共著)の出版が決定している。したがって、本研究はほぼ計画どおりに進展していると自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、本研究課題の基礎となる先行研究の調査とそのまとめがおもな研究成果であった。次年度は、初年度の研究成果・課題をさらに拡充し、新発見を踏まえた論文を発表することを目指し、また、国際学会で発表をおこない、国外の研究者からもフィードバックを得ることを目標とする。さらに、「研究実績の概要」で説明した論点(1)のテーマに論点(2)ならびに(3)を接続することを試みたい。その際、「形式」(form)あるいは「形式主義」(formalism)、そして「よろこび」(pleasure)などを鍵語とする予定である。これによって、シェリーの感性の詩学から19世紀唯美主義に至る系譜 (類似性や差異) をあらためて整理し、新たな理解をもたらすための計画を推進してゆきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度末に注文をしていた物品(タブレット型PC)が品切れとなり、納品が次年度の4月以降に延期されたため。 本年度未使用となった額は、次年度に繰り越し、当初予定されていた物品費に充てる計画である。
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