研究課題/領域番号 |
25770116
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
木谷 厳 帝京大学, 教育学部, 講師 (30639571)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 英語圏文学 / イギリス / P・B・シェリー / ロマン主義 / 唯美主義 / ラファエル前派 / 詩 / 美学 |
研究実績の概要 |
平成27年度においても、イギリス・ロマン派詩人P・B・シェリーの「感性の詩学」の研究を基礎とし、シェリーの詩作態度が19世紀後半の英国における「唯美主義」的な詩人や芸術家に与えた影響について調査を進めた。なかでも、のちの「唯美主義」に連なる「ラファエル前派」の芸術家たち、とりわけ「詩の肉体派」(The fleshly school of poetry)とも形容されたD・G・ロセッティの絵画詩や散文と、シェリーによる感性の詩学の具体的な接点を探った。 両者のつながりを特徴づける調査過程において、別の比較対象としてシェリーの同時代詩人ジョン・キーツと、その詩作品を絵画のテーマとしてたびたび採用しているラファエル前派との関係も整理した。ラファエル前派とキーツの関係を対比的に並置することによって、ロセッティとシェリーの共通点を前景化することを目指した。この研究は、27年度中に具体的な成果をまとめて発表するまでには至らなかったものの、副次的な成果として、「美感的なもの」をめぐるキーツの詩的特質について「イギリス・ロマン派講座」(イギリス・ロマン派学会主催)で発表する機会が得られた。 その他には、昨年同様、ロマン主義者シェリーと「美感的なもの」(the aesthetic)の関係を現代の「文学理論」の文脈において整理する作業も進めた。とくに、批評家ポール・ド・マンが「美学イデオロギー」として考察した、ロマン主義における美の諸相をめぐる問題についても文献調査を続けた。これに関連して、大阪大学の小口一郎准教授の協力を得て、美学イデオロギーを分析するうえで不可欠となる「(おもに英独仏の)ロマン主義における主体の問題」をド・マンがどう説明したかについて発表し、大阪大学の研究者たちと意見交換をする機会を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度の研究から見えてきたものは、シェリーとロセッティの創作態度において共有されるものある。それは、「〈聖〉と〈俗〉のあわい」というイメージをもちいて説明することが可能であり、〈聖〉は魂に、また、〈俗〉は肉体にそれぞれ置き換えることができる。ここから、両者の詩学的共通性は、感覚美の詩を極限まで追求することを通じてその彼方に存在する(と彼らがみなす)超感覚的かつ神聖なものへの接近を目指す態度にあると想定できる。27年度の研究では、このなかにシェリーのロマン主義的美学と、ラファエル前派に属するロセッティが内包する「ロマン主義的」(W・ペイター評)美意識を架橋する結節点を見出すことを目指した。しかし、その論旨を補強するためには、まだ調査すべき資料(ジョン・ラスキンやトマス・ド・クィンシーの著作など)が存在すると判断したため、ここまでの研究を年度内に研究発表や論文としてまとめることができなかった。したがって、進捗状況は「やや遅れている」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
「美感的なもの」を共通項としてシェリーとラファエル前派(さらに唯美主義)の関係について考察を深めるために、その補助線として、キーツのみならず、少なくともジョン・ラスキンやトマス・ド・クィンシーらによって19世紀前半に書かれた美学的テクストを調査する必要があると推察される。とくに、ラスキンの『近代画家論』(_Modern Painters_,vol.2, 1846)に登場する「(動物的)耽美」(aesthesis)と「観想的知」(theoria)という術語をもちいた美と道徳についての議論が、イギリスのロマン主義(シェリー)やラファエル前派(D・G・ロセッティ)とどのような共通点ないしは相違点を持つのかに注目しつつ、今後の研究を推進したい。
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