ディドロの言説戦略の分析を起点としながら、18世紀フランス思想における科学と文学の交錯の諸相を検討するという研究目標について、顕著な成果を挙げた。 研究内容の面では、(1)思想史的に名高いクラーク=ライプニッツ論争に対して、ディドロが、クラークのニュートン主義的機械論からも、ライプニッツの「モナド」の形而上学からも等しく距離を取りながら、ルクレティウスの原子論に接近していることを明らかにした点、(2)生物学や化学への関心を通して、ディドロが、リンネの動物分類学からも、モーペルチュイの有機体形成論からも距離を取っていることを明らかにした点において、成果を挙げた。 具体的な成果としては、『怪物的思考 近代思想の転覆者ディドロ』(単著、講談社選書メチエ、2016年3月)を挙げることができる。本書では、生成期の近代諸科学に対して、ディドロがどのように「文学」的に介入し、どのような「哲学」を引き出したのかを明らかにした。既に書評が出ることも決まっており、18世紀フランス思想の研究に重要な問題提起をできたと考える。 また、フランスのオルレアン大学にて、日仏比較文学の観点から、18世紀におけるフランス(ディドロ)と日本(上田秋成)の文学、美学、哲学について発表を行った。また、「原子」に内在する潜勢力の問題に注目した『怪物的思考』の執筆を通して、現代の巨大科学の極点としての「原子力発電」の問題にも関心を寄せ、『脱原発の哲学』(共著、人文書院、2016年2月)を刊行した。古典研究と現代社会のアクチュアルな問題を架橋しながら研究を展開するこのような姿勢を、今後も堅持していきたい。
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