平成27年度に公刊した著書によって、本研究課題の所期の目標はおおむね達成された。研究期間を1年延長した平成28年度は、本研究課題をさらに展開し、広く成果を公表するための作業をおこなった。 まず、研究成果の国際的発表がある。オーストリア・ウィーンで開催された国際比較文学会・文学理論委員会ワークショップにおいて、本研究課題の主要対象のひとつであるユーリー・ロトマンの「翻訳」概念について口頭発表をおこない、委員との討議から有益な示唆を得た。今後、英語で論文化する予定である。また、ロトマンについては、その「演劇性」理論を、彼の生きた後期ソ連の社会史的文脈から分析した英語論文が、近刊予定である。 平成29年1月には、現代ロシアを代表する美術批評家ボリス・グロイスが来日し、彼を囲んだシンポジウム「アート・パワーについて」で口頭発表をおこなった。ソ連出身の現代美術家イリヤ・カバコフに関するグロイスの論を題材に、人間の集団性や共同性がどのように捉えられているかを分析し、グロイスと討議をおこなった。この発表も論文化予定である。 次に、日本国内での、学術コミュニティを超えた成果発表がある。『ユリイカ』に発表した論文では、近代~現代ロシアのナショナリズムについて、アメリカとの対照性を軸に解説した。また、批評誌『ゲンロン』でロシア現代思想の特集を監修することになり、平成29年度の刊行に向け、本研究課題の成果を踏まえて準備を重ねた。 本研究課題をとおし、現代ロシアのナショナリズムをとりまく思想的環境を明らかにするとともに、国内外に広く成果を公表できたと考えている。
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