研究課題/領域番号 |
25770124
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
田中 琢三 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 助教 (50610945)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 日本:フランス / 比較文学 / フランス文学 / 政治思想 / 文献学 / 国際情報交換 / データベース |
研究実績の概要 |
本研究の2年目となる平成26年度は、初年度に実施した歴史家の平泉澄とフランスの作家ポール・ブールジェの思想的影響関係に関する研究を継続しながら、戦前の日本のアカデミックなフランス文学研究の領域においてブールジェがどのように受容されたのかという問題を、京都帝国大学の教授で仏文学者の太宰施門の仕事に焦点をあてて検討した。 具体的には、太宰が発表したフランス文学に関する新聞記事、雑誌論文、研究書などを読み解くことで、彼がブールジェの文学や伝統主義の思想をどのように評価し、日本にどのように紹介したのかを調査し、その成果の一部を、大学紀要『お茶の水女子大学 人文科学研究』第11巻に、フランス語で執筆した論文『太宰施門におけるポール・ブールジェとフランス「伝統主義の文学」の受容』(査読有)として発表した。この論文では、おもに太宰が大正期から終戦直後にかけて刊行したフランス文学史に関するいくつかの著作を取り上げて分析しながら、太宰が教えを受けた東京帝国大学のフランス人教授エミール・エック、あるいは、エックの授業を通じて太宰が受容したフェルディナン・ブリュヌティエールやヴィクトール・ジローらフランスの保守的な講壇批評家の文学観やイデオロギーが、太宰のフランス文学史における記述やブールジェに対する評価に与えた影響の射程を明らかにした。 さらにブールジェとともにフランス伝統主義を代表する作家であるモーリス・バレスの日本における受容の研究にも着手した。具体的にはバレスの作品の翻訳やこの作家に関する日本語文献を可能な限り閲覧、収集し、それらを精読し分析する作業を進めている。この我が国におけるバレスの翻訳や研究についての調査、特に第二次世界大戦期における受容に関する考察の結果は、次年度以降に口頭発表か論文のかたちで発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度と平成26年度の2年間では、おもに戦前の帝国大学に所属するアカデミズムの学者である平泉澄と太宰施門におけるブールジェおよびフランス伝統主義の受容について研究を行ってきた。そして、従来の研究ではあまり検討されてこなかった我が国の戦前・戦中におけるフランス文学の受容の問題、つまり皇国史観の歴史家である平泉がブールジェの保守的な政治思想にどのような影響を受けたのか、バルザックの研究者である太宰がブールジェの古典主義的な美学を日本にどのように紹介したのかという問題を実証的に研究し、その結果をフランス語の論文として発表できたことは、日仏両国の比較文学研究の発展にとって有益な成果であると思われる。 しかし、他方では本研究において進展していない側面がいくつかある。まず本研究の基盤となるブールジェやフランス伝統主義に関する文献や資料のデータベース化、あるいは研究成果のインターネット上での公表が進んでおらず、本研究のために開設した個人ホームページがあまり活用できていない。また、現在までのところこの研究は基本的に個人で行っており、日仏の研究者との連携や情報共有が十分に行われていない。また研究内容に関しては、これまでは、平泉澄にせよ太宰施門にせよ、もっぱらアカデミズムにおけるブールジェの受容を検討しており、アカデミズム以外の一般読者や在野の知識人がどのようにブールジェを受け入れて評価していたのかという問題はほとんど考察していないという欠点ががある。これらの側面については来年度の研究の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成27年度は、本研究に関係する文献や資料のデータベース化を進めるとともに、これまでの研究成果を踏まえながら、おもに第二次世界大戦期の日本におけるブールジェとフランス伝統主義の受容について研究を実施する。具体的には戦時中の1939年から1941年にかけて次々と出版されて売れ行きが良かったブールジェのいくつかの小説の翻訳、また同時期に翻訳・刊行されたバレスの『科学の動員』などを取り上げて、これらの作品が戦時下の日本において一般の読者にどのように読まれていたのか、あるいは当時の戦時体制の確立と思想的、精神的にどのように関係しているのかを考察し、文学による戦争協力の諸側面というより幅広い射程を持った問題を検討していきたい。また戦前の日本において厳しい検閲を受けたエミール・ゾラに代表されるフランス自然主義文学の受容とブールジェに代表されるフランス伝統主義文学の受容のあり方の相違を比較することも計画している。 これらの研究のために、もし必要があればフランスの図書館等に赴いてブールジェやバレス関連の文献を閲覧、入手したいと考えている。また日仏の研究者たちとできるだけ活発な情報交換を行うなど国際的な動向を視野に入れながら研究を実施したい。研究成果は日本比較文学会の大会等で口頭発表するとともに、日本語あるいはフランス語の論文にまとめて学術雑誌に発表したい。また、これらの発表内容や論文、あるいはデータベース化した文献や資料のリストなどは積極的に個人ホームページで公開していきたい。
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