本研究の最終的な目的は、再構築の波のなかにあるボスニア・ヘルツヴェゴヴィナ文学がもつ、世界文学としての可能性を明らかにすることにある。本研究期間では、その中心となるイヴォ・アンドリッチの小説作品について、(1)ユーゴスラヴィア解体後のアンドリッチ作品を取り巻く状況、(2)アンドリッチ作品におけるムスリム、(3)アンドリッチ作品における街と橋の表象の三点から検討をする。これにより、ヨーロッパとイスラームという二つの文化圏の相克がアンドリッチ作品、さらには作品読解の歴史のなかにどのように刻印されてきたかを考察する。 初年度である2013年はまず、アンドリッチをめぐる現在の状況について把握をすることを目的としていた。海外調査に行くことはできなかったものの、アンドリッチ研究の基礎文献を相当数入手した。 また、『ドリナの橋』の翻訳に着手するとともに、「物語が紡ぐ名前」と題して『ドリナの橋』で登場人物の名前がどのように機能しているかを考察するエッセイを執筆した(『図書』、2013年7月号、岩波書店、27頁)。
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