本研究の目的は、アンドリッチ作品に見られる民族文化の混淆の考察を主軸に、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ文学がもつ「新しいヨーロッパ文学」の可能性、さらに、国民文学の収斂から世界文学が生み出される可能性を検討することにある。まず、作品の受容について把握をする。アンドリッチをめぐる状況について歴史的経緯を調べ、次に作品の読解を行うこととした。とくに、「ボスニア三部作」と呼ばれるアンドリッチの主要小説群のうち、『ドリーナの橋』を中心に、アンドリッチ作品における登場人物の名前の検討を行った。 本研究の成果としては、まず、イヴォ・アンドリッチに関する一般読者向けの二編のエッセイ(「ノーベル賞作家の数奇な後生~イヴォ・アンドリッチ」、「物語を紡ぐ名前」)を発表した。さらに、学術論文として、"The Naming of Characters in Ivo Andric's The Bridge on the Drina"を発表した。これは国際学会The International Council for Central and East European Studies IX World Congressでの口頭発表を大幅に加筆修正したものである。最終年度には共編著『東欧の想像力』を出版した。この書籍では特に「ユーゴスラヴィア文学」史の記述を試み、アンドリッチを含めたさまざまな作家をそのなかに位置づけた。
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