研究課題/領域番号 |
25770134
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田中 智行 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (50531828)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中国文学 / 古典文学 / 小説 / 批評 |
研究概要 |
本研究の目的は、中国の明清小説における小説批評と小説創作との連関を明らかにすることにある。白話小説批評は明代後半から末期にかけて盛んとなり、やがて多くの作品が本文に批評を附して刊行されるようになっていった。この状況を当時の小説作者予備軍の立場にたって見るならば、彼らが創作に先立って受容した小説の多くには批評が附されていたこととなり、彼らの小説の読み方・書き方には、それら先行作品への批評が何らかの形で影響していたことが予想される。その影響を考察することによって、先行作品への批評的視線がどのように新たな作品の創作に反映されていったのかを明らかにすることができるであろう。 以上のような考え方に基づいて研究を進めるにあたり、今年度は明末の長篇白話小説『金瓶梅』に清初になって詳細な批評を附した張竹坡(1670~1698)に注目した。それは、この人物が『金瓶梅』批評に先立って自ら世情小説を執筆しようとして挫折した体験を自ら語っているからであり、少なくとも本人の意識においては、実作者として『金瓶梅』を批評していると見なせるからである。張竹坡の批評は金聖歎(1608~1661)の強い影響を受けているが、一方では作品の隅々までを意図によって操作、管理する者として位置づけるなど、金聖歎とは異なる一面も見いだせる。本年度においては、両者の批評態度の違いを検討した論文を台湾における国際シンポジウムにおいて発表した他、張竹坡の「批評第一奇書金瓶梅読法」の訳注(二回分載予定の第一回)を公刊した。「読法」の言及するのが作品のどの箇所であるかを一々注記することで、理解しやすい訳文とすることを心がけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小説批評の実作に及ぼした影響というのが本研究の課題であるが、2013年度の研究では批評と実作の接点にいたと目される張竹坡の言説を詳しく見るにとどまった。実際に小説批評が、新たな小説創作に対していかなる影響を及ぼしたかという点に踏み込むことはできなかったものの、小説批評の代表的なものである張竹坡の批評としてまとまったものである「批評第一奇書金瓶梅読法」の訳注(前半)を作成することによって、その主張を整理することができ、基礎作業として意義あるものになったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当面、張竹坡「批評第一金瓶梅読法」の訳注作業を継続する。一方で、小説批評に携わりつつ実作をも盛んに行った人物として、李漁の作品を取り上げることができないかを考えている。李漁の短編小説は計算されつくした構成をもち、ある意味で極度に人工物めいているが、その背後には李漁の小説(戯曲)はかくあるべきであるという確固とした理念が感じられる。また、計画に記した『儒林外史』『紅楼夢』といった作品についても着手したいとは考えているが、膨大な先行研究のある領域でもあり、限られた時間でどのようなことができるか再検討する必要を感じている。
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