研究課題/領域番号 |
25770134
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田中 智行 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (50531828)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中国文学 / 白話小説 / 金瓶梅 / 批評 |
研究実績の概要 |
本研究においては、中国明清代における小説批評と小説創作との連関の解明をテーマとして掲げた。我が国においては、白話小説批評について、金聖歎の『水滸伝』批評などの例外を除き、その文学理論的な側面や小説受容への影響などが重要視されてきたとはいえない研究状況にある。しかしかつての中国の小説批評は小説本文に付随して刊行され、巻頭や各回冒頭にまとまった議論を置いたり、本文の欄外や行間などにまで詳細なコメントを付すものであったのだから、本文受容に際しては批評をも同時に目にしていた読者が多かったはずであり、読者が同意するにせよ反発するにせよ、批評は作品の読み方をある程度規制するものであったと考えられる。そうした小説と批評とを享受した読者により、新たな小説が書かれる場合には、かつて目にした批評が一種の創作指南として作用した場合もあったのではないか。このように、小説批評に注目することで、白話小説の受容と創作とを見渡す一つの有効な視点を得ることができるのではないかと考えられる。以上のような観点から古典小説批評の精読に取組み、25年度につづき26年度も、張竹坡の『金瓶梅』批評を中心的に扱って、「批評第一奇書金瓶梅批評」の訳注を完成させた。26年度に訳出した箇所のうち重要な内容としては、作品中の齟齬までも作者の意図によるものだとの主張、作品を自分の書きつつある生成途上のものとして読むべきとの主張、作者が人物を登場させる方法を構成上の必然として理詰めで論じる箇所などが特徴的であり、作品のすべてを計算・管理する作者を想定する張竹坡の批評姿勢がよくあらわれている。訳注には語注を施したほか、批評で言及されている箇所が第何回であるのかも示し、張竹坡の主張を適切に理解できる訳文・訳注となるよう心がけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績欄にも記した通り、張竹坡「批評第一奇書金瓶梅読法」については計画通り訳注を発表することができた。このほかにも、雑誌の刊行が大幅に遅れているものの『文学新鑰』(台湾・嘉義大学)に投稿した中国語論文(既発表の日本語論文に加筆)が、査読を経て掲載されることが既に決まっている。このように張竹坡という批評者でありながら実作を志したと称する人物の批評のありかたを探ることで、研究課題の考究を進めることができたと考えている。また現在、『金瓶梅』(詞話本)全文の新訳・訳注に合わせて、かつての読者がどのようにその場面を読んだのかを読者に紹介する目的から、興味深い批評を訳注の一部として掲出する作業を行っている。この作業を開始した26年秋から4月上旬までで、第13回までの本文訳と訳注の初稿を完成させている。全体が100回にわたる大部なものなので、本課題の研究期間が終わる2017年3月までに、まず初巻を刊行し、本研究課題の成果にしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上に記したように、『金瓶梅』(詞話本)本文の新訳に合わせて、かつての読者がどのようにその場面を読んだのかという観点から、興味深い批評を訳注の一部として掲出する作業に全力を注いでいる。崇禎本の批評や、それを時に批判する張竹坡の批評を紹介することで、『金瓶梅』が張竹坡や、さらに後の小説作者予備軍(おそらく『紅楼夢』の作者も含まれる)の目に、どのようなものとして映ったのかが、多少なりとも一般読者に伝わる形での新訳にしたいと考えている。また『金瓶梅』の翻訳自体、学術的な翻訳は半世紀近く前の小野忍訳から後には現れておらず、その後の中国や米国における研究の蓄積を、一般読者は殆ど知るすべがない状況にある。小野訳は、現在の研究水準からいって問題が多く、より正確な翻訳が以前から求められてきた。昨年夏に出版社から新訳の打診を受け、膨大な作業になることと、本研究の当初計画を変更せざるを得ないことを考慮してもなお、引き受けるに値する仕事であると判断し着手した。本課題の研究機関が終わる2017年3月までに初巻を刊行し、以降、少なくとも6~7年ほどをかけて完結させたいと考えている。
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