研究課題/領域番号 |
25770135
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
甲斐 雄一 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 研究員 (10637929)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 出版文化史 / 本文批判 / 域外漢籍 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、前年度に引き続き『名公妙選陸放翁詩集』諸テキスト(元刊本系統・明刊本系統)と『剣南詩稿』テキスト(20巻本残巻・85巻本)との校勘作業を進め、テキスト間の異同について検討した。元刊本テキストを校勘に用いることにより、詩人陸游が生きた12-13世紀に続く、14世紀における詩歌本文の分岐と保存が確認された。また、詩集『剣南詩稿』のテキスト間の異同が、陸游本人による推敲の痕跡である可能性を指摘した。なお、『名公妙選陸放翁詩集』元刊本は、現時点での調査の限り中国大陸にはすでに現存しない、日本のみに伝わる域外漢籍として貴重な資料であることが明らかとなった。 さらに、『名公妙選陸放翁詩集』が収める詩型の傾向から、同時期の選本と比較して該書がいかなる性格を有するのかを検討した。陸游自身が編集した『剣南詩稿』では12句の古詩としている作品が、『名公妙選陸放翁詩集』では4句ずつに切り取られて収録される。これは、同時代の選本にもともと8句の律詩を4句だけ切り出して絶句として収録する例が確認され、こうした例が同時代の読者層の認識を反映したものであることを指摘した。このような例は、詩歌の創作主体階層が通俗化していった13世紀後半から14世紀頃の詩歌受容の一端として位置づけられ、通俗化した詩人たちがどのようにして詩作を学んだのかという問題につながっていくものである。 以上のような研究成果を、口頭発表を経て2篇の学術論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請書では日本江戸期における陸游詩受容についての分析を範囲とし、研究計画では平成26年度後半から着手する予定であったが、まだ所収詩の整理段階にとどまっているため。
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今後の研究の推進方策 |
未実施である、江戸期の文人による『名公妙選陸放翁詩集』増補作品について検討し、江戸時代の日本人が陸游をどのように受容したか、またその際拠ったテキストが今日我々の目睹しうるものと同一であるか等の問題意識から、東アジア漢字文化圏における陸游詩受容について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に計画していた中国への実地調査及びプリンタ購入が、所属機関変更のため年度内に遂行できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は研究成果の総括及び発信を進める予定であるが、幸いに中国での国際学会(中国宋代文学学会・中国陸游研究会)にて口頭報告・論文投稿する機会があり、これらの参加旅費・論文翻訳の謝金として使用する。また、プリンタやホームページ作成ソフト等、成果発信・公開に必要な物品費としてこれらを用いる予定である。
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