本研究では、元代に編まれた南宋・陸游詩の選集(アンソロジー)である『名公妙選陸放翁詩集』の諸版本について調査し、日本にのみ現存する元刊本・五山版が宋から明にかけての陸游受容において大きな役割を果たしていたことを明らかにした。『名公妙選陸放翁詩集』の本文は、陸游自身による推敲の過程を保存している可能性があり、かつ当時の読者に最も読まれた本文であった。また元々の詩の一部を切り取って絶句のような短詩として收録している例があるように、該書は14世紀において陸游という士大夫の詩が非士大夫層を含んだであろう読者による受容の一端を表しているのである。
|