研究課題/領域番号 |
25770136
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
松浦 智子 名城大学, 理工学部, 助教 (40648408)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 北方系「家将もの」 / 楊家将 / 狄家将 / 挿画 / 明代内府抄本 / 明清の社会・文化 |
研究実績の概要 |
本研究は、明清期に多く出現した、楊家将、狄家将等の世代累積型の北方系「家将もの」通俗文芸が、近世中国の文化・社会に影響力をもつに至った原因を考察するものである。H27年度は、前年度に続き、「家将もの」文芸群の中でも原点的な位置にある「楊家将もの」について考察を進めた。具体的には、明代内府彩絵抄本と推定される『出像楊文広征蛮伝』(東洋文庫蔵)(①)の検証を行った。①は明代の二つの楊家将小説『北宋志伝』『楊家府演義』にはない重要な情節を持つが、国内外で研究が未着手状態にある。そこで、①の制作年代・出自を明らかにすべく、8月に中国国家図書館に赴き、上原究一氏(山梨大学准教授)と共に、明代内府彩絵抄本と推定される『大宋中興通俗演義』(②)と、着彩挿画をもつ世徳堂刊『大宋中興演義』(③)の調査を行った。結果、②の版形・体裁、彩絵の様式、②③の顔料・着彩手法等が明清の内府抄本と同様のものであり、それらが①と酷似していること、清代で忌避される語が②作中に頻出することから②が明代の物であること、等を明らかにし、①が明代内府抄本であることを確認した。その後、3月には上原氏と共に東洋文庫で、明代内府彩絵抄本と推定される『外戚事鑑』(④)と①の追加調査を行った。これらの成果は、2016年9月に論文として発表予定である。 また、これらと並行して進めた北京大学版『中華文明史』の翻訳作業では、明清時代の諸方面の文献を多数調査する機会を得、「家将もの」が量産された明清時代の文化・社会・歴史背景を総括的に把握し直すこととなった。本成果は、『中国の文明――文明の継承と再生』明清~近代上巻(潮出版社、2016年2月1日)として結実した。 この他、8月には前年度までの研究成果の一部を第10回明代文学会で「明代両個宗族六合楊氏、代州楊氏和北虜―“楊家将小説”形成的一個背景」として口頭発表する機会も得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度は、当該課題のそれまでの研究成果、とくに一群の「家将もの」文芸の中でも原点的な位置にある「楊家将もの」研究についての成果が、①岡崎由美・松浦智子編著『楊家将演義読本』(勉誠出版、2015年5月25日)、②岡崎由美・松浦智子共訳『楊家将演義』上下巻(勉誠出版、2015年5月25日)という二つの形で結実したため。 さらに、「楊家将もの」だけでなく「家将もの」文芸全体にとって源泉的な話型をもちつつも、国内外で研究が未着手であった明代内府彩絵抄本『出像楊文広征蛮伝』(東洋文庫蔵)の研究を、版本研究の専家である山梨大学の上原究一氏と共同で進めることができ、これまで主に基層文化に属するとされてきた「家将もの」が、明の宮廷という上層にも影響を与えていたという新知見が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は、H25年度に得た薛家将の文物調査の結果をはじめ、これまでの研究活動で得られた情報を整理・活用しながら、「家将もの」通俗文芸の総合的な考察をおこなう。その際、H27年度に行う予定であったが未履行である山西省における狄家将関連の文物調査を、中国史を専門とする飯山知保氏と共同で夏期休暇中に行い、その調査結果もあわせて検証をすすめていく予定である。 また、これまでの研究成果を、8月に早稲田大学と神奈川大学で共同開催される国際シンポジウムにて口頭発表し、国内外の明清通俗文芸研究者と意見交換をしたのち、明清期に大量に出現した「家将もの」文芸全体の構造に関する見取り図を論文にまとめる。その際、薛家将研究を専門に行う早稲田大学(院)の柴崎公美子氏とも研究成果の共同とりまとめを行い、複眼的な視点から「家将もの」文芸全体の構造を立体的に浮かび上がらせていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度中に行う予定であった山西省における狄家将関連の文物調査が、翻訳作業や出版物上梓の関連から、予定通り進めることができなくなったため、繰り越し金ができた。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度の繰り越し金を用いて、当該年度中に上述の山西省における狄家将関連の文物調査を行う予定である。
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