本研究では、楊家将など北方の武将一族が数世代にわたり活躍する姿を描く「家将もの」文芸が、近世中国の文化・社会に普及した要因を考察した。まず、山西地方に残る文物(石碑や戯劇レリーフ等)調査を通して、「家将もの」文芸の物語構造の形成に実在の宗族が関わっていたことや、戯劇という視聴覚文芸が挿画付き出版物(「家将もの」文芸を含む「成化説唱詞話」など)の出現に連続性を持っていた可能性を示す知見を得た。また、この知見と新出資料の内府色絵本『楊文広征蛮伝』をあわせて検証することで、「家将もの」等の通俗文芸がビジュアル機能を活用して非識字層も取り込みつつ需要層を拡大した、という普及の一つの道筋を示した。
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