研究課題/領域番号 |
25770139
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
呉 世宗 琉球大学, 法文学部, 准教授 (90588237)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ポストコロニアル |
研究概要 |
本研究は、韓国と日本におけるポストコロニアル文学研究の展開の相違を、支配/被支配といった二項対立的な認識機制に対して、どのような批判が展開されていったのかを比較することで明らかにし、それを通じてより機能的な理論構築のための基盤整備を行うものである。 韓国においても日本においても、ポストコロニアル文学研究の論点は多岐にわたって展開している。「ポストコロニアル」という概念自体の捉え方の問題や、言語の混種性、植民地規律権力とその内面化の問題、あるいはポストコロニアル研究と精神分析学やジェンダー論などとの接合の試みが行われている。研究対象も朝鮮人や日本人だけでなく、移住者、亡命者、難民等の文学作品などが取り上げられており、時代的空間的に研究領域の大きな広がりを見せている。だが同時期に両国でポストコロニアル理論の需要がなされたにもかかわらず、互いの研究動向やその特徴などについて整理し比較検討する作業は、まだ十分になされたとは言えない。 前年度は主に次の二点を検討した。第一に「帝国主義」「植民地主義」「民族主義」という観点から二項対立的認識機制の問い直しを行った研究論文や文献の収集を日本と韓国で行った。1990年代には、二項対立的な認識機制を問い直しつつも「近代化」は肯定的に評価する議論「植民地近代化論」(安秉直1997)も登場しており、そのような研究も含め、関連する先行研究の収集を広く行った。第二に、収集したものの分析を行い、日本と韓国において二項対立的認識論的機制がどのように問題化されているのかを比較検討し、その特徴の抽出と整理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように本研究は、日韓におけるポストコロニアル理論の受容と展開を比較検討するものであるが、前年度は、「帝国主義」「植民地主義」「民族主義」という観点から二項対立的認識機制の問い直しを行った研究論文や文献の収集を日本と韓国で行った。また第二に、収集したものの分析を行い、日本と韓国において二項対立的認識論的機制がどのように問題化されているのかを比較検討し、その特徴の抽出と整理を行った。 資料収集に関しては、絶版図書など入手が困難なものもいくつかあったものの、日本においてはもちろんのこと、韓国においても大学図書館に赴き多くの文献を収集することができた。また1990年代のポストコロニアル理論に関する文献や論文の内容を整理し、日本と韓国の研究の展開について比較検討を行った。両国において二項対立的な認識機制が「帝国主義」「植民地主義」「民族主義」という観点からどのように問題視され、諸概念が再検討され、またどのようなコンテクストで論じ直されているのか整理を行った。 2013年8月には、韓国・ソウル大学にて開かれた民族文学論に関するフォーラムにおいて、研究成果の一環として、白楽晴の民族文学論をポストコロニアルの観点から論じた。白の民族文学論は、「何らかの民族的現実」に基づく必要のあるものであるとされ、その現実とは分断という民族危機的な状況であったり、民衆の基本的欲求であったりする。他方で民族文学は第三世界文学として、世界の民族文学と結びついていく必要があると、多様な観点から論じられてきた。そのため白の民族文学とは、民衆や危機と第三世界文学との間でその姿をつねに変えていく運動的性格を持つものであることを指摘した。その点、開かれた民族文学観になっており、1990年代以降のポストコロニアルな文学理論と結びつきうる可能性があるものだと論じた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度は、計画された研究計画のもと、「帝国主義」「植民地主義」「民族主義」という観点から二項対立的認識機制の問い直しを行った研究論文や文献の収集を日本と韓国で行った。資料収集に関しては、絶版図書など入手が困難なものもいくつかあった。とりわけ韓国で出版された図書に関しては、再度韓国の大学に赴き、集中的に文献の調査と収集を進めていく必要がある。同様に日本で出版された図書や論文に関しても、絶版の図書や入手困難な資料が一部あったが、資料の調査収集を継続して行っていく。 また前年度は、収集した資料の分析を行い、日本と韓国において二項対立的認識論的機制がどのように問題化されているのかを比較検討し、その特徴の抽出と整理を行った。だが入手困難な資料があったために、日本と韓国の議論の展開についての整理と比較検討が不十分にとどまっている部分もある。したがってこの点に関しても、資料の収集と同時並行的に比較検討を行っていくことが必要となり、また行っていく。 本年度は、2000年代に行われた、「近代性」そのものを問う「植民地近代」についての研究を行っていく予定である。本年度は前年度に収集した資料や得られた知見をもとに、より研究を深めていく年度である。入手困難であった資料収集に関しては、本年度に必要となる資料と同時に収集し、また90年代と2000年代の日本と韓国のポストコロニアル研究の展開過程を有機的に関連させて立体的な比較検討を行っていくことで前年度不十分であった点を補う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
・予定していた購入図書が絶版となっており、入手困難であったため。 ・予定していた資料の購入あるいは部分的複写にあてる。
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