平成27年度は、日本と韓国のポストコロニアル文学研究において、現在、二項対立的認識論的枠組みがいかに変容しているのかを比較検討するために、在日朝鮮人文学に関する研究の収集・分析を行った。日韓におけるポストコロニアル文学研究は、その分析対象が植民地期の文学だけでなく、1945 年以降の在日朝鮮人文学作品までに広がってきている。そのため日本と韓国における在日朝鮮人文学の先行研究の収集を行った。 先行研究の特徴としては、韓国では、2004 年ごろから「ディアスポラ」という観点から在日朝鮮人文学を論じる研究が急速に増え始めていることがわかった。日本においても、同時期に「ディアスポラ」を用いた在日朝鮮人論や文学研究が増加し始めている。しかし両国における「ディアスポラ」という観点からの在日朝鮮人文学の研究は、「ディアスポラ」概念に充填される意味内容の違いもあり、植民地問題が必然的に惹起する支配/被支配、協力/抵抗といった二項対立的な認識の機制に対する論じ方の差異として現れていることを明らかにした。 平成27年度の研究成果は、(1)「在日朝鮮人文学における私」(韓国・東国大学2015/9/12)、(2)「『火山島』翻訳記念 金石範シンポジウム」(成蹊大学、2015/11/8)、(3)アジア現代思想計画MAT「〈平和と連帯〉の思想史―バンドン会議/第三世界60年・沖縄土地闘争60年」(沖縄大学、2015/11/13-15)(4)日本近代文学会「在日朝鮮人文学に関するパネルセッション」(早稲田大学、2015/11/24)で報告した。報告の内容は、小説家の金石範や詩人の金時鐘についてや、1950年代はじめの在日朝鮮人組織の動向などを中心としたものである。
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