本研究では、ドイツ語の否定表現として代表的な副詞nicht及び不定代名詞keinが歴史的にそれぞれどのように成立し発展してきたのかについてコーパスを用いて考察した。具体的には、古高ドイツ語での話法の助動詞に対する否定副詞の作用域や、中高ドイツ語における単独否定と累加否定の意味論上の相違について示した。また、中高ドイツ語の否定辞neは接続法とともに補文標識としての役割があることを明らかにした。さらに、keinは古高ドイツ語では否定極性表現であり、中高ドイツ語期に否定の意味を持つようになったこと、また、keinにもnichtの通時的変化と比較し得るサイクリックな変化があることを提示した。
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