本年度(最終年度)の中心的な研究対象は、現代朝鮮語の漢字語に観察される〈流音後濃音化〉および〈語彙的濃音化〉である。ソウル市内で若年層(20代)のソウル方言話者15名を対象としたインフォーマント調査を実施し、その結果の記述と解析を行なった。 〈流音後濃音化〉について闡明し得たことは次の通りである。まず、全体的な傾向として、〈1音節+2音節以上〉よりも〈2音節以上+1音節〉の構造のほうが流音後濃音化が生じやすい。次に、形態論的観点から照射すると、〈1音節+2音節以上〉でも〈2音節以上+1音節〉でも自立性の高い要素同士の結合においては生じにくい。つまり、流音後濃音化の実現如何は主に音節数よりも、語構造(複合語か派生語か)が統べていると言いうる。音韻論的観点から照射すると、〈1音節+2音節以上〉の場合は後行要素に、〈2音節以上+1音節〉の場合は先行要素に濃音が含まれる場合には、流音後濃音化が起きにくい。これは異化の一種であり、日本語の連濁の〈ライマンの法則〉ともよく似ている。また、後行要素が/s/で始まるものは、/d/や/j/で始まるものに比べて流音後濃音化実現如何に個人差が顕著な語が相対的に多い。さらに、なじみ度が低い語においては流音後濃音化が生じにくい。 〈語彙的濃音化〉については接尾辞{-cek}(的)に対象を絞り調査を行なった。結果は次の通りである。まず、〈1音節+-cek〉では、先行要素の末音を問わず、語彙的濃音化を極めて起こしやすい。〈2音節+-cek〉では、先行要素の末音と語彙的濃音化の間に相関関係がある。先行要素の末音が母音の場合には語彙的濃音化は悉皆生じず、鼻音の場合も生じにくい。流音の場合には生じやすいが、先行要素に濃音を含む場合には異化作用により語彙的濃音化が防遏されやすい。
|