研究概要 |
本年度は,天草地方の調査と分析を中心に行った。天草方言は和語や漢語に/bb/,/dd/,/gg/といった有声促音を持つ方言であることが報告されている。今回は崎津,今富,牛深,深海,本渡という5つの集落を対象に,(1)これらの音配列を持つ単語が保存されているか,(2)音響音声学的にどのような実態を持つか,(3)外来語における有声促音(例:タッグ,キッズ)と音声的に異なるのか,(4)有声性や促音の知覚はどうなっているのか,という4点を調査した。 調査の結果は以下のとおりである。(1)については牛深方言以外の4つの集落において,二字漢語(国語→こっご),文末表現(例:来る+ぞ→くっぞ)について有声促音が確認された。一方,牛深方言ではこれらの単語や表現はないという報告が得られた。(2)全ての方言において有声促音は完全な声帯振動を持つことが確認できた。(3)少なくとも声帯振動に関しては,集落による違いが観測されなかった。(4)おおよその傾向を確認できた。ただし,サンプル数や被験者(話者)の慣れの問題があり,確たる結果を得ることができていない。 以上の結果は,音韻体系と音響音声学的な実現が独立したものであることを示唆している。もし,音韻体系として有声促音を許す(容認度が高い)ということと,音響音声学的に声帯振動がより確実に見られるということが相関するならば,本渡方言では声帯振動は不完全なものであることが期待されるからだ。 また,長崎方言についてこれまで得られたデータを整理し,促音や長音,撥音とアクセントの実現の相互作用について研究発表を行った。
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