最終年度である平成27年度は,複数の異なる系統の言語(日本語,英語,Dagaare語,琉球語那覇方言)の数詞のシステムを比較し,多くの言語で自然言語の数詞の統語構造が加算演算子に大きく依存していることを明らかにした.さらに加算演算子は併合統語操作が直接的に適用された結果であるという提案をし,自然言語の数詞がなぜ離散無限性を示すのかという問いに対し,併合操作の関与を具体的に明らかにした点で意義があると考えられる.その離散無限性の表し方は,いわゆる1+1+1+1...のような後者関数のシステムでもなく,また全ての自然数に対して同じ数の全く異なる種類の数詞を割り当てるシステムでもなく,加算演算と限られた数の基数を基にしたシステムであり,それは経済性と外在システム(記憶等)の相反する要請に対して認知システムが生み出した最適解であるという分析を提示した.また数詞は統語構造上は代名詞根要素と同一のカテゴリーに属する一方で,類別詞は代名詞根に後続する要素(名詞クラス要素)と同一のカテゴリーに属しているという分析を提示した.以上の本研究課題の3年間の研究成果をまとめ「自然言語の数詞とシンタクス」として論文を出版した.尚,本論文は日本語で執筆されているため,内容を大幅に拡充した英語論文を執筆中である.また本研究課題から新たに名詞構造内の数,性,人称を表す要素の分布とその普遍性に関して興味深い現象が明らかになった点において,数詞のメカニズムの解明にとどまらず,今後性,名詞クラス,類別詞の統語構造の研究につながる重要な基礎も築いたと言える.
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