平成28年度に実施した研究は,韓国の江原道方言のうち,三陟(さむちょく)方言,旌善(じょんそん)方言,江陵(かんぬん)方言を中心にし,そのアクセントの記述を行った。 三陟方言は,地理的に慶尚北道と面している遠徳(うぉんどく)邑と三陟市に近い近德(くんどく)面を実地調査した。両方言共に4つのアクセント型が対立を成しているが,具体的な音調型が異なる。旌善方言は,餘糧面を実地調査し,3つのアクセント型が対立を成していることが分かった。江陵方言は,2種類のアクセント型が対立していることが確認できたが,話者の都合で沢山の資料を集めることができなかった。単独形や助詞付のアクセント特徴から,調査したすべての方言でアクセント核と語声調の2種類のアクセントが共に存在していることが分かった。 本研究は,N型アクセント体系(語声調)と分類されてきた方言のアクセント実態を明らかにしつつ,「アクセント核と語声調(狭義のアクセントと声調)が1つの体系内に共に存在しうる」という理論の一般化を図るための記述研究であった。研究期間全体を通じて,アクセント核の有無とその位置により解釈されてきた方言・語声調の種類の対立によると解釈されてきた方言が,1つのアクセント性質のみでは一概的に捉えられない現象があることが分かった。この異なる現象は,2種類のアクセントに起因するものだと解釈した。これは,姜英淑(2017)で,慶尚道諸方言が1つの体系の中にアクセント核と語声調を兼ね備えていると解明した点と一致する。 よって,韓国語の諸方言は,1つの体系の中に狭義のアクセントと声調を兼ね備えており,2種類のアクセントは一つの体系内に共に存在しうるものと一般化できる。これにより,多型アクセント体系(アクセント方言)・N型アクセント体系(語声調方言)のような分類は必要なく,方言によってアクセント核と語声調の数の差があるだけと結論付ける。
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