本研究の目的は、小児期の発話における運動前野の役割について明らかにし、吃音児と非吃音児で発話時の運動前野の反応に差があるという仮説を検証することである。成人を対象とした機能的磁気共鳴画像(fMRI)研究において、日本語単語(無意味語)を音読した際に吃音者は非吃音者よりも左の運動前野の賦活が強いことが報告されている。吃音者では発話時において角回とブローカ野の活性が弱く、左運動前野がその機能を代償していると推察される。そこで幼小児においても同様の反応がみられるかどうか検証し、左運動前野の過活動により吃音となるのか、または吃音症状の固定化によって過活動となるのかを明らかにする。しかし、fMRIは身体の拘束性が強く、幼児での計測が困難である。本研究では非侵襲的かつ非拘束で脳機能を計測できる近赤外分光法(NIRS)を使用することで、幼小児期における吃音発症と運動前野との関係を明らかにできると考えられる。 平成28年度では、これまでの成果のまとめと次に説明するプログラムの作製を中心に実施した。小学校低学年に向けて年齢が低くなるほど頭が動くなど、体動が目立つことが多くなる。しかし、NIRSの送受光プローブ座標が正確に得られないと皮質のどの領域を測定しているか曖昧となってしまい、結果の解釈ができなくなってしまう恐れがあった。そういった状況でも安定した座標データが得られるようプログラムを制作する必要があった。従来利用されてきた3次元位置計測装置と異なり、簡易的なカメラデバイスより得られた画像データからプローブの3次元位置情報を計算する新たな手法を開発中であり、すでに3次元座標の取得には成功した。さらに、処理のリアルタイム化を図ることで、幼小児NIRS計測の実施をより簡便なものにすることができると考えられる。
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