古代日本語には、「なほし」と「なほす」のような現代日本語では見られない形容詞と動詞の対がある。そこで、このような対が現代語よりも古代語で多く見られる理由や対の有無による相違を検討することで、古代語用言の文法的性質と現代語につながる変遷を明らかにすることが本研究の目的である。 そのため本研究では、上代から中世における形容詞と動詞の全体像を視野に入れ、対の有無という形態的側面と形容詞・動詞それぞれの文法的性質との関係を明らかにすることを試みた。具体的には、これまで(1)古代語の形容詞・動詞の異なり語数や延べ語数といった量的側面を把握し、これらが形態的にどの程度対応を持つのかを検討する。(2)対応をもつ形容詞・動詞と対応をもたないそれがどのように異なるのかを検討することを行ってきた。それに加え最終年度では、(3)古代語に多くの形容詞と動詞の対が見られる理由やその意味について、各品詞の文法特性と関わらせながら考察した。また、現代に向かうに従い、形容詞と動詞の対応が減少することをふまえ、(4)上代から中世までの形容詞・動詞の対応と文法的性質の変遷のあり様を明らかにすることを試みた。形容詞及び動詞の時代ごとの文法的性質を検討すると同時に、その通史的変化の一端も考察している。 以上のことから、本研究では、古代語における形容詞と動詞の対の有無という形態的な側面と形容詞・動詞それぞれの文法的性質との関係、各時代ごとの特色とその変遷について明らかにすることができた。この結果は、日本語史における用言研究として貢献できると考える。また、今後本研究の成果を現代語や方言のあり様と比較することで、日本語史にとどまらず、現代語や方言における用言研究にも寄与できると考える。
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