研究課題/領域番号 |
25770180
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
茨木 正志郎 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (30647045)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 定冠詞の出現時期 / 定冠詞の統語位置 / 文法化 |
研究概要 |
平成25年度は、英語の定冠詞theの出現に関して、①出現時期と確立の時期、②古英語の指示詞seの名詞句構造上の位置、③指示詞seから定冠詞theへの発達過程の三点について研究することを目標にあげていた。 ①について、YCOE、PPCME2、PPCEMEなどの史的コーパスを使って得られたデータの分析を行い、定冠詞の出現時期は12世紀頃で、完全に定冠詞としての機能を持つのは14世紀前半であることを明らかにした。 ②について、多くの先行研究(Lyons (1999)、Roberts and Roussou (2003)、Watanabe (2009)など)が古英語の指示詞はDP指定部であると分析している。しかし、それらの分析を検討した結果、現代以前の英語に、実際は存在しない、"The this book"のような用例を予想するという、理論的問題があることを指摘した。また、先行研究の多くは理論中心で、事実面からの実証が弱い。①で得られたデータに基づき、指示詞の統語位置について分析を重ねた結果、指示詞の統語位置はD主要部であると結論付け、先行研究が直面する理論的問題も解決できることを示した。 ③について、当初は文法化を生成文法の理論で説明を試みているGelderen (2011)のFeature Economyを利用して、定冠詞の発達を捉えることが出来るという予想で研究を進めていた。しかし、Feature Economyには理論的問題があることが明らかになった。現在は、③について、Roberts and Roussou (2003)やRoberts (2007)の理論的枠組みによるアプローチで研究を進めている最中である。 ③について、北海道理論減額研究会第6回大会で研究発表を行った。また、①~③について、日本英文学会第86回大会で研究発表をすることが決まっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英語の定冠詞theの発達について、、①出現時期と確立の時期、②古英語の指示詞seの名詞句構造上の位置、③指示詞seから定冠詞theへの発達過程の三点について研究することを目標にあげていたが、①と②については予定通り調査・分析を行うことができた。 ③について、採用する予定であったGelderen (2011)の理論的枠組みに問題があることが明らかになり、言語事実を説明できない(矛盾が生じる)ということが分かった。彼女の主張するFeature Economyとは、単語の持つ素性に経済的なものとそうでないものが存在しており、その経済性に基づいて、文法化は起こるというものである。しかし、このような考えを推し進めていくと、そもそもなぜ、非経済的な素性を言語が持つのか、という問題が生じる。また、GelderenはChomsky(1995)のMerge over Moveに基づいたLate Merge Principleを主張している。Late Merge Principleとは、ある要素が併合した後より高い位置へ移動するよりも、直接、その高い位置へ併合させるほうが経済的である、というものである。しかし、ChomskyのMerge over Moveは、ある位置へ低い位置にある要素をあげるよりも新たな要素をその位置へ直接併合させるほうが経済的である、というものである。GelderenはChomskyのMerge over Moveを取り違えているようである。 このような状況をふまえ、現在は、文法化を生成文法の枠組みで説明しようと試みているRoberts and Roussou (2003)やRoberts (2007)を参照にしている。それらは言語変化の最大の要因は、屈折形態素の消失にあると主張している。定冠詞も、古英語指示詞の屈折が失われたことから発達したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の定冠詞に関する研究成果をレフェリー付の雑誌に投稿する。定冠詞での研究を足掛かりに、平成26年度は、④不定冠詞a(n)と定冠詞theの平行性と⑤不定冠詞a(n)の史的発達の二つの問題を明らかにする。 ④について、先行研究を行い、それらで分析されている定冠詞と不定冠詞の分布の特徴をまとめ、それに基づいて英語の母語話者から(不)定冠詞に関するデータを収集し分析する。その際、定冠詞と同じ範疇として分類される指示詞や所有代名詞のデータも一緒に収集し分析する。 ⑤について、不定冠詞は古英語の数詞○n(○はaにマクロン)から発達されたと言われており、不定冠詞としての役割と数詞oneとしての役割を担っていた。史的コーパスを利用して、古英語から近代英語まで、数詞○nとその異形の分布を調査する。そして定冠詞の発達で利用したHopper and Traugott (2003)、Roberts and Roussou (2003)、Roberts (2007)などの文法化理論を利用して、その発達を説明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度末に緊急の出張が重なってしまったため。 緊急の出張を想定し、少し余裕をもって予算執行するようにする。
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