平成27年度は、名詞句構造の発達を通時的視点と共時的視点から明らかにするために、所有代名詞の文法化と名詞修飾形容詞の歴史的変遷について研究を行った。 名詞修飾要素の中で所有代名詞のみが、古英語においてかなり自由な分布を示していたことがIbaraki (2009)の調査によって明らかになっている。Ibaraki (2009)のコーパス調査を基に、もう一度データを精査し、所有代名詞の分布の移り変わりを明らかにした。そして、定性を持つ名詞句内修飾要素はD主要部へ文法化するという仮説を立て、所有代名詞のD要素への分布化に生成文法の理論を用いて説明を与えた。今後は、属格名詞や(不)定冠詞などのD要素への文法化についても、コーパス調査を行い、ここでの仮説に基づいて説明を与えていく。 名詞修飾形容詞は、古英語では主要名詞の前にも後ろにも自由に表れることが出来ていたが、現代英語までに限定形容詞は名詞前位に現れるようになり、叙述形容詞は名詞後位に現れるようになる。本年度は、Fischer (2000)とHaumann (2010)の調査・分析を批判的に検討し、それらの問題点を指摘した。そして、Dikken (2006)のRP構造を用いた分析を使って、形容詞の分布の変遷に説明を与えた。このような調査・分析は名詞句の中でも低い位置の構造を明らかにする一助となると考える。 所有代名詞の文法化については第87回英文学会のシンポジアムで研究成果を発表し、形容詞については第33回日本英語学会で研究発表を行った。
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