本年度は、10月にマレーシアクアラルンプールで行われた第12回マレーシア日本語教育国際研究発表会において前年度の実験結果の報告を行った。また、11月にマレーシアで行われた5th Malaysia International Conference on Foreign Language(MICFL2015)において口頭発表を行った。さらにこれらの内容をまとめ、論文とし『第二言語としての日本語習得研究』に投稿した。 本事業の研究期間を通しての成果は次の通りである。本事業の研究目的は、リーディングスパンテストで測定されたワーキングメモリ容量と読解能力の相関関係が日本語学習者においても成り立つのか明らかにすることである。ワーキングメモリは、一時的な記憶と情報の処理を同時に行う機能である。文を読むという活動は、今読んでいる内容を一時的に記憶しながら次の文を処理するという同時並行的な処理が求められる。その過程でワーキングメモリの働きが読みの活動に大きく関わると考えられるが、それが日本語学習者の日本語読解過程においても強い関係を持つのか検証した。 対象は母語での読解能力が高いマレーシア人中級日本語学習者である。実験に先立ち、ワーキングメモリ容量を測定する道具としてマレー語版リーディングスパンテストを作成した。また、読解能力の測定のために、日本語読解テストを作成した。リーディングスパンテスト、読解テストを実施し、それらの相関を調べたが、強い相関関係は見られず、先行研究とは異なる結果となった。 その原因として二つの可能性が考えられる。一つは、対象者の日本語レベルが中級程度で、十分に高い日本語能力を有していなかったこと、もう一つは、読解テストの形式がワーキングメモリの働きに十分に負荷をかけるものではなかった可能性があることである。今後の研究では、これらを明らかにしていく。
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