最終年度である本年度は、全国各地の地方自治体ならびに国際交流協会へのニーズ調査及び聞き取り調査の結果を基に、現在コミュニティ通訳の中でも需要の高かった相談通訳に焦点を当て、教材の作成と多言語化(英語、中国語、インドネシア語、フィリピン語、ベトナム語、ネパール語)を図った。 文献研究からコミュニティ通訳では、コミュニケーションが複数の話者間で交わされるため通訳教材が対話形式であること、在留資格、税金、災害時情報支援、精神科診療など多岐に亘るシチュエーションに沿ったものであること、さらに結婚、出産、子どもの教育・進学など、ライフステージを考慮した設計となっていることの3点が肝要であることが判明していた。そのため本教材では、司法、行政、教育、医療などの相談通訳が主となるコミュニティ通訳の現場において、業務にあたる際必要となる専門用語及びその概説を記述した。具体的には、国籍や在留資格、難民、逮捕、起訴、離婚、親権、相続、倒産、退職、起業、保険、生活保護、義務教育、適応指導、日本語指導、高校進学、精神障害、DV、児童虐待、異文化ストレスといった内容を網羅している。内容は上述の6言語に翻訳し、多言語対応を目指した。 本研究で試作した教材は、全国の地方自治体や国際交流協会、その他の専門機関が相談通訳を主軸とするコミュニティ通訳の育成に向けた研修などを実施する際、加えて相談現場での通訳をつかさどる人材が通訳者としてのスキルアップを図る際など利用できるよう設計されたものである。さらに大学・大学院における通訳教育においても、特にコミュニティ通訳に関する演習や自律型学習で使用しやすいよう、実践の場に即した内容となるよう配慮がなされており、広く活用することが期待される。また、本教材は複数のウェブサイトを通して配信されており、社会への還元を目指している。
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