研究課題/領域番号 |
25770224
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
河上 麻由子 奈良女子大学, 人文科学系, 助教 (50647873)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 仏教 / 対外交渉 / 仁寿舎利塔建立事業 / 梁職貢図 / 清和天皇 / 受菩薩戒 |
研究概要 |
本年度は、五~九世紀に、仏教と王権とがどのように関わり、その結果、仏教にどのような対外交渉上の機能が期待されたのかを論じた。 第一に、仏教色を強調する対外交渉が最も多く行われた梁代について、梁職貢図の題記には他書にはない使者名が複数残されており、うち幾人かはソグド人である蓋然性が極めて高いことを明らかにした。 第二に、ベトナムバクニン省で出土した隋仁寿舎利塔建立事業時の舎利石函・舎利塔銘・発見場所を調査し、隋各地で制作された石函の形状や舎利塔建立地は、建立を主導する僧侶の仏教理解や当該地域の政治的状況の影響を強く受けていたのであろうと結論付けた。 第三に、五~九世紀、国境を越えて移動する僧侶は、移動先の僧侶と師弟・同学関係を構築、帰国後もその関係を維持することがあった。そのような師弟・同学関係が国家間交渉を補完する役割を果たした事例を、結節点となった寺院を含めて汎アジア的に調査、僧侶が当該時代の対外交渉に果たした役割を多面的に理解するための視点を得た。 第四に、僧侶を中国への使者に起用するということは、南北朝~隋唐代、アジアの広い範囲で行われた。特に唐代には、中国が仏教信仰の中心地としての地位を獲得したことにより、僧侶の派遣自体に政治的意義が付加された。上記を踏まえ、日本が遣唐使に還俗僧とみえる人物を起用していたことの政治的意味を推測した。 第五に、清和天皇が円仁から菩薩戒・灌頂を受けたことについて、清和の父文徳天皇が円仁から灌頂を受けたことを考えれば、清和の受戒・受灌頂には文徳の意志が働いていた可能性が大きいとした。文徳は、九世紀の天皇が多く入唐僧から灌頂を受けたことを踏まえつつ、自身の在世中には清和に潅頂を受けさせ、死去後、即ち清和即位時には菩薩戒を受けさせることで、史上初の幼帝である清和の身を仏法により守護させようとしたのであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)中国の対外政策と仏教の関係について梁職貢図などを史料として研究を進める、(2)皇帝主導の経録編纂がもつ政治意義を通史的に探る、(3)古代アジアの国家間交渉で僧侶が果たした役割を通観し、還俗僧とみえる人物が初期の遣唐使に起用されたことの持つ意味を解明する、(4)仏教に基づく国際関係の重層性を追究する、(5)師弟・同学関係が国家間交渉を補完したようにみえる事例を地域を限定せずに調査することで、仏教に期待された機能を多面的に理解する、(6)中国の辺境地域に仏教が及ぼした影響についても、舎利塔建立事業と関連して取り上げる、といった6つの視点からの研究推進を計画している。本年度には、そのうち(1)(3)(5)(6)という4つの視点を用いた研究成果を公開しており、その点において研究の進展は認められてよい。 ただし、研究計画では(1)について梁の対外交渉と仏教の関係を相対化するために北朝との比較を行うとしたが、第二年度に行う予定であった研究のいくつかを今年度に推進したため、北朝の対外交渉については今年度は研究を推進することができなかった。 また(2)と(4)については未検討である。 以上の状況から、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)について、梁職貢図の使者図・題記に関する分析から得られた結果を北朝の対外交渉のあり方と対比させることで、梁の対外交渉についての理解を深める。それと同時に、梁職貢図からうかがえる梁の「天下」観を、漢訳仏典中の「天下」と比較することでその特徴を解明する。その上で、六世紀の倭国の「天下」についても言及したい。 (2)について、経典目録を勅命によって編纂するということは、皇帝主導で経典を収集し、その真偽を決定していくことに他ならない。ならば皇帝は、経録の編纂を通じて、少なくとも漢訳仏典圏内における、仏教信仰の主催者たる地位を創出したはずである。他方、八世紀日本の一切経写経事業では、唐の経典目録で書写対象外とされたものも書写されたことから、仏教世界における唐との対等性が意図されたと理解されることがある。しかし、仏典漢訳を勅命で行い、新訳仏典を勅命によって経録に収めていくということを行っていた唐との対等性を、経録外の漢訳仏典を書写することで日本はいかに演出しえたのか。一切経を書写し、完備することが持ったアジア史上の意義を考察するための基礎的な情報を整理しつつ、八世紀日本の一切経書写事業がもつ意義について再検討を加える。 (6)について、ベトナムタインホアに伝来した「隋大業十四年寶安道場之碑」を再調査し、バクニン省出土仁寿舎利石函・舎利塔銘の分析から得た結論を踏まえた考察を進めることで、仁寿舎利塔建立事業が中国の辺境地域に及ぼした影響について検討する。 (4)について、以上の研究を前提として、仏教による国際秩序構築を目指したようにみえる事例を網羅的に収集し、その影響関係などを調査する。
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