1、第4代鎌倉公方足利持氏の発給文書224点について、総合的な検討を行い、その結果を論文として発表した(「足利持氏の発給文書」)。その内容は概ね以下の通りである。 A、足利持氏の発給文書でもっとも多く使用されたのは、鎌倉公方発給文書の基本的な形態である御判御教書形式であるが、書状形式文書の使用例・割合が、初代鎌倉公方の足利基氏・第2代公方の足利氏満・第3代公方の足利満兼より有意に多い(高い)。このような書状形式文書の多用は、持氏の子息足利成氏による文書発給のあり方に影響を与えた可能性がある。B、足利持氏が使用した文書の形式・用途や使用時期の変遷と当該期の政治史は密接に結びついていたと考えられる。C、足利持氏の花押形は、上杉様4形態・足利様3形態の2様式7形態に分類できる。この花押形分類に基づいて、無年号文書の年次比定が、ある程度可能になる。 2、足利持氏発給文書・鎌倉府関係文書の調査を新たに実施し、足利持氏の花押の経年変化(2様式7形態)の論証過程を発表する上での基礎データをさらに充実させた。また、足利基氏・氏満・満兼関係文書データベースを整備し、とくに鎌倉公方発給文書と関東管領発給文書とを関連づけやすくした。さらに、足利成氏発給文書について、花押形の分析対象となりうる文書の原本写真・影写本の収集・整理を進めた。 3、自治体史編纂事業に参加し、鎌倉府、とくに足利持氏に関わる時期の地域史叙述を担当した。叙述にあたっては本研究課題の遂行過程で得られた成果をふまえた。 4、鎌倉時代の成立に関わる小学校・中学校の教科書記述のあり方(各学校種で求められる教育内容と教科書記述の関係、教科書記述と研究の進展との関係)に関する大学での授業実践を発表した(「日本史教育における教科書活用の試み」。ただしこの成果は主に平成21~24年度科学研究費若手研究(B)21720223での知見に基づく)。
|