本研究は、近世の天皇・朝廷がいかにして成り立っていたのか、またその存在は関係するもろもろの集団にいかなる影響を及ぼしていたのかを、財政面から検討することをおもな課題としてきた。 この分野の研究が進んでこなかった最大の理由は、史料が欠如していると考えられていたからであり、本研究においては、それを克服するべく、初年度から積極的に史料調査を行ってきた。本年度も、国立国会図書館憲政資料室、京都府立総合資料館、同志社女子大学今出川図書館、宮内庁書陵部、首都大学東京図書館などに赴き、関係史料の調査を行い、複製の収集などに努めた。 これらの史料などを活用して、これまでいくつかの論文などを執筆したが、本年度は最終年度であるので、とくに研究の取りまとめを行い、①単著『近世の朝廷財政と江戸幕府』(東京大学出版会、2016年4月)、②研究報告「嘉永期の朝幕関係」(近世史研究会、於東京大学史料編纂所中会議室、2016年2月)を得た。 ①『近世の朝廷財政と江戸幕府』は、18世紀~幕末を対象に、幕政、とくに財政政策との関連に留意しながら、江戸幕府が天皇・朝廷に対して行っていた財政保証や支援のあり様とその変遷を具体的に明らかにし、そこから幕府と朝廷の関係=朝幕関係の内実と変遷を考察したものである。 一方、②研究報告「嘉永期の朝幕関係」は、嘉永(1848~54)期の朝幕関係を、近世後期から幕末にかけて関白・太閤として朝廷で権勢を振るった鷹司政通、弘化5(1848)年から安政4(1857)年まで武家伝奏を勤めた三条実万の朝幕間の諸問題に対する認識・振舞いなどに着目して考察したものである。
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