研究課題/領域番号 |
25770236
|
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
添田 仁 茨城大学, 人文学部, 准教授 (60533586)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 境界勢力 / 密貿易 / 私貿易 / 長崎 / 天草 / 神戸 |
研究実績の概要 |
本研究では、「鎖国」・「海禁」といった徳川幕府による対外政策を骨抜きにしていた境界領域の人々の行動様式に着目し、彼らが構築していた政治社会と国家権力との関係性を分析することで、境界領域からの視点で近世の国際関係をめぐる国家史的理解を再構成するとともに、前近代の東アジア海域におけるトランスナショナルな交流・接触のあり方の歴史的特質を抽出することを目的にしている。 (1)西海地域における私貿易・密貿易(抜荷)の具体像と、その担い手の行動様式を解明するために、長崎を中心とする西海地域で発生した密貿易(抜荷)の記録をリスト化し、これを基礎にして、「鎖国」貿易体制のもとで貿易を生業としていた長崎の住民、さらには長崎で生み出される貿易利潤の恩恵に浴していた個別領の住民の視点から密貿易の歴史を再構成する作業を行った。 (2)海外に流出した鉱物の発掘と輸送にかかわった人々の行動様式を解明するために、主として近世・近代移行期の開港場(生野銀山~神戸)における鉱物をめぐる制度と実態の分析を進めた。 (3)私貿易・密貿易に対する国家権力の対応と、藩権力の関わり方を解明するために、密貿易に対峙した幕府と藩の具体策を分析した。とくに、天草久玉山と豊前大里に設置された抜荷番所、そして西海地域への漂着に関わる歴史資料の現地調査と資料蒐集を行った (4)長崎を中心とする西海地域から日本列島に流入した異国・異域の文化の浸透状況と、それらが各地の地域社会に与えた影響について分析を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
西海地域における私貿易・密貿易(抜荷)の具体像と、その担い手の行動様式を解明するために、長崎を中心とする西海地域で発生した密貿易の記録を抽出し、鎖国貿易体制のもとで貿易を生業としていた長崎の住民、さらには長崎で生み出される貿易利潤の恩恵に浴していた個別領の住民の視点から密貿易の歴史を再構成する作業を進めてきた。 とくに、私貿易・密貿易に対する国家権力の対応と、藩権力の関わり方を解明するために、密貿易に対峙した幕府と近隣藩の具体策が交叉するフィールドとして、天草・鹿児島・小倉・佐賀北部地方を中心に史料調査・蒐集を進めた。また、私貿易・密貿易に関わる諸主体によって構成された横断的な政治社会の実態を解明するために、西海地域における密貿易の摘発地を抽出し、摘発の場に際しての幕府・地役人・個別領主・住民等の関係者の行動様式を集積するための基礎的な調査を行った。さらに、西海地域に漂着した異国船に関する事例を集積し、異国人・異文化に対する地域社会の対応について調査を進めた。 近世・近代移行期の開港場における鉱物をめぐる〈境界勢力〉の対応についても調査を深めることができている。とくに、開港場神戸に入港する船の燃料として使用された石炭の供給方法について、西海地域で培われた技術や身分集団との関わりを含めて分析を進めている。 また、新たな分析の視点として、長崎を中心とする西海地域から日本列島に流入した異国・異域の文化の浸透状況と、それらが各地の地域社会に与えた影響について調査を進めた。とくに、中国絵画である南画の浸透状況と文化的影響力について検討した。
|
今後の研究の推進方策 |
ひきつづき、西海地域の諸主体が幕府からの追及を逃れて共存関係を築いていた政治社会の事例を集積し、〈境界勢力〉固有の行動様式を解明する作業に着手する。とくに、私貿易・密貿易や漂着船に関わる諸主体によって構成された横断的な政治社会の実態を解明するために、西海地域における密貿易の摘発地、異国船の漂着地を抽出し、現場での幕府・地役人・個別領主・住民等の関係者の行動様式を集積する。 また、長崎を中心とする西海地域の〈境界勢力〉によって醸成された知見や技術の近代的展開を分析する。 そして、本研究を総括し、境界領域からの視点で近世の国際関係をめぐる国家史的理解を再構成するとともに、前近代の東アジア海域におけるトランスナショナルな交流・接触のあり方の歴史的特質を抽出する。
|