本研究は、近代日本における弁護士の動向に焦点を当て、戦前・戦後の社会運動・人権擁護運動を歴史的に再検証することを目的としている。社会と法(司法)の接点に位置する実務法曹たる弁護士を対象とし、特に社会運動に積極的に携わっていった「社会派弁護士」に着目することで、近現代日本の社会運動における法の問題や人権擁護の可能性、歴史的制約を明らかにするものであり、具体的にはその中心的存在であった布施辰治及び自由法曹団を考察対象としている。 平成27年度は、当初計画に掲げていた石巻文化センター所蔵資料の調査及び資料撮影を行った。同センター所蔵布施辰治関係資料は、東日本大震災による被災で長らく閲覧ができない状態であったが、平成27年度に閲覧が可能となり、調査を実現することができた。調査で撮影した資料については、画像整理及び目録化を進めたが、今後も継続して調査する必要がある。また、布施辰治研究に関する現状と課題について、シンポジウム参加等を通して、明治大学や名古屋市立大学、岩手大学をはじめとする研究者・関係者らと情報の共有を図った。 また、東日本大震災以前に調査及び撮影した原資料及び、法政大学大原社会問題研究所所蔵資料、富士見市立中央図書館渋谷定輔文庫資料の整理・分析を継続したほか、戦前の在野法曹・社会運動関係の文献の収集を進め、その検討を行った。その成果として、戦前の社会運動家や事件などについて辞典に執筆するなどした。 さらに、当初計画では想定していなかったが、研究の推進の上で、戦前社会運動関係文献の検閲体制とその実態に関して新たな課題となった。このことは、1920年代から30年代の日本及び東アジアの社会運動とそれに対する法運用について重要な課題であり、研究会での報告等を通して書誌学や経済学など他分野の研究者と議論することができた。
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