研究課題/領域番号 |
25770254
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河原 弥生 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (90533951)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中央アジア / タリーカ / 国際研究者交流 / ウズベキスタン / ナクシュバンディー教団 / ムジャッディディーヤ / 聖者廟 |
研究実績の概要 |
本研究は、中央アジアのイスラーム史において大きな位置を占めるナクシュバンディー教団の18-20世紀における変容を解明することを目的とする。具体的には、18世紀のインドに生まれた同教団の改革はムジャッディディーヤの中央アジアにおける拡大の過程と旧来の勢力との関係を実証的に明らかにすることを目指している。 平成26年度は、19世紀半ばにコーカンド・ハーン国領内でのムジャッディディーヤの発展に大きな役割を果たした指導者、マジュズーブ・ナマンガーニーの活動とその後継者に着目して検討を進めた。当該時期に作成された教団の免許状や系統書によると、マジュズーブ・ナマンガーニーは、ムジャッディディーヤを含む4つのスルークの教導者であったとされるが、他のスルークのうちとりわけカーディリー教団が重視されており、自らの教団をカーディリー教団と称する場合もあったことがわかった。このことは、彼らの教団が、ナクシュバンディー教団で一般的なフフィー(無声)のズィクルではなく、カーディリー教団に特徴的なジャフリー(有声)のズィクルをも行っていたことに関係する可能性が高いが、中央アジアにおいて、カーディリー教団独自の活動はこれまでほとんど解明されておらず、両者の関係性が注目される。この問題について、フランスのThe Journal of the History of Sufism誌に英語で論文を発表した。 また、この問題に関連して、ウズベキスタンで現地調査を行い、カーディリー教団に属する系譜史料を入手することができた他、マジュズーブ・ナマンガーニーの高弟に関して、その子孫から20世紀初頭の具体的な教団活動の様相を聞き取ることができた。さらに、ムジャッディディーヤに属するもう一つの系統と考えられる「ミヤーン」と呼ばれる一族の子孫にも面会し、史料を入手するとともに一族の歴史について聞き取ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、ムジャッディディーヤの中央アジアへの流入過程の全体像を解明するために主に分析の対象としているのは、インドから中央アジアに移住して布教活動を行った「ミヤーン」と呼ばれる指導者一族である。平成26年度においては、彼らの子孫に面会してインタビュー調査を行うことができ、また彼らが所蔵する史料を複写することができた。さらに、ムジャッディディーヤにおいてカーディリー教団の影響が大きいことを明らかにし、それに関連する現地調査を行って、やはり子孫が所蔵する史料を複写することができた。以上の点で、本研究はおおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進のためにまず目指したいのは、「ミヤーン」の子孫へのインタビュー調査の続行である。今年度の面会によって、子孫自身が一族の歴史の研究上の重要性に気づき、関心を高めており、調査終了後に、新たな史料が見つかったとの連絡もあった。今後も調査を重ねることにより、「ミヤーン」一族のフェルガナ盆地全域にわたる布教活動がかなりの程度明らかになると見込んでいる。 また、ムジャッディディーヤとカーディリー教団の関係性が明らかになったことにより、本課題に対するアプローチの手段が増加した。現地においてもさらに新たな史料の発見があると見込める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の交付決定額を全額使用できなかった主な理由は、本研究課題ともテーマが密接に関連する科研費「アフマド・スィルヒンディーとムジャッディディーヤの調査研究」(基盤研究B 代表:奈良学園大学 川本正知)の研究分担者として、共同でウズベキスタンおよびトルクメニスタンで比較的長期の現地調査を行ったため、スケジュールの都合上、ロシアあるいはドイツでの文献調査を実施することができなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度においては、当初の予定通り、ロシアあるいはドイツの研究機関において文献調査を実施したい。また、ウズベキスタンにおける現地調査も続行したい。
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