研究課題/領域番号 |
25770257
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鈴木 宏節 大阪大学, 文学研究科, 研究員 (10609374)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遊牧民 / トルコ / 突厥 / ゴビ砂漠 / 突厥碑文 / モンゴル / 中央ユーラシア / 唐 |
研究実績の概要 |
平成26年度も海外調査を実施するとともに、その調査結果を分析し発表した。 まず、平成26年7月、モンゴル国に渡航し、科学アカデミー考古学研究所の協力を得て、ドンドゴビ県でフィールド調査を実施した。今回は特にオルジート郡に所在するデル山を調査対象として、その自然景観ならびに遺跡・遺物を観察した。古代岩画、青銅器時代のヘレクスル、仏教寺院遺址のほか、突厥文字銘文、漢文銘文の所在地をGPS計測し、それぞれ精査した。特に漢文銘文については、7世紀の唐の年号が使用されており、古代トルコ遊牧民と唐王朝の関係を示唆するものとみられ、今後の研究の深化を期待させるものであった。また、マンダルゴビ市の県立博物館やドンドゴビ県各地で情報収集にあたり、来年度以降の現地調査候補地となる遺跡の情報を得た。 つぎに、8月、古代トルコ遊牧民族史における突厥文字の意義を解説する論考を一般学術誌『アジア遊学』に発表した。中央ユーラシアにおける草原世界の古代トルコ遊牧民とオアシス民ソグド人との葛藤を、具体的に碑文史料の解読成果をもちいて紹介した。 つづいて、平成27年1月、本研究課題の対象でもある古代トルコ遊牧民突厥ならびに突厥碑文についての一般概説論文を発表した。数年来、研究者、大学生、高等学校の教員、高校生などを前に何度か研究会や講演で報告してきた内容をまとめたものである。フィールドワークや実証研究がどのように教材となったり、歴史叙述になってゆくのかを写真や図版などをふくめてわかりやすく解説したものである。 最後に、平成27年3月、本年度の夏期調査の成果を口頭報告した。前述のデル山の漢文銘文は、唐の府兵制によって徴発された防人が、モンゴル高原のゴビ砂漠に従軍していた証拠であった。また、この史料は、遊牧民がゴビを縦断するルートを示唆するものであると、時代を前後する関連資料などを手掛かりに示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題にかかげた南北モンゴルについて、特に北モンゴルのゴビ砂漠の現地調査を重視した。これは実際にゴビ砂漠を縦断する遊牧民の手掛かりが遺跡・遺物という形で発見され、それにアクセスできたからである。今年度の成果は、ゴビ砂漠の遺跡を文献史料の記述によって、南北モンゴルの交通路の痕跡として位置付けたことであり、南北モンゴルにおけるふたつの遊牧中原の関連性を問う本課題において実質的な検証成果を得たと言えよう。 とは言え、当初計画していた中国所蔵の墓誌史料やロシア所蔵の突厥碑文テキストの調査は実施することができなかった。次年度以降、これを補う史料の調査をもって分析を継続してゆきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、北モンゴル、つまりモンゴル国のゴビ地帯で、ゴビ縦断の手掛かりになると推測される遺跡の情報を得た。今後、その遺跡を踏査し、可能であればモンゴル側の協力を得て拓本などを採取し、研究・公開をしてゆきたいと考えている。現在、遺跡調査と拓本の採択が可能であるか、研究機関と折衝中である。 また、南モンゴルの調査であるが、予定通り、来年度は内モンゴル自治区(バインノール市、ウラド中旗・後旗)で調査を実施し、南モンゴルの遊牧中原に関連する遺跡の分布を把握したい。 なお、ロシア所蔵に匹敵する価値のある突厥碑文の拓本が九州大学図書館に所蔵されているという情報を得た。まずはこの資料的価値を確認する作業を実施したいと考えている。その上で、研究計画に記した、ロシア調査の実施を検討したい。
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