本研究課題の成果を中心として整理し、『近代アジア市場と朝鮮』(単著)を刊行した。同書は19世紀後半から20世紀初頭までの朝鮮が、アジアの多角的・広域的な国際市場の中に編入されてゆく過程について、国際的要因・国内的要因の双方に目を配りながら解明を図ったものであり、その切り口として、朝鮮に進出した華商らの貿易決済方法を取り上げた。華商らの商品貿易の経路は上海からの輸入を中心とする単純なものであったが、その決済経路は多様かつ多角的で、中国や日本の各開港場華商と連携しつつ、近代的インフラストラクチャーと在来的手段の双方を組み合わせながら、時々のコストとリスクを考量して決済していたことを明らかにした。このような華商の決済方法は、開港期の朝鮮が国民経済的なまとまりを形成しないままに、重層的・越境的な経済的空間の中に投げ込まれたことを反映している。これによって、朝鮮の国際市場における位置付けについて、開港以前の朝鮮後期とも、植民地期とも異なる開港期独自の性格を明らかにしえたものと考える。なお他に、査読雑誌論文2本を含む研究成果の発表をあわせて行った。 なお上のような研究成果のとりまとめにあたっては、これまでに収集した華商同順泰の経営文書(ソウル大学校所蔵)、駐韓使館档案(中央研究院所蔵)を中心史料として利用したが、国内出張(東京・国立公文書館、大分・大分県文書館)によって得た史料・文献を補足的に活用した。また海外出張では韓国国立中央図書館において関係史料・文献を収集したほか、研究会等の参加を通じて韓国人研究者との情報交換をはかり、本課題終了後の研究展開の足掛かりを構築することに努めた。
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