本研究は、19世紀後半ロシアで聖職者身分を離れて「神学ジャーナリスト」となったA・ポポヴィツキーの活動を分析して、従来、世俗的な出版活動からのみ論じられる傾向の強かった近代ロシアの世論形成について新たな知見を加えることを目的とした。彼が創刊したロシア初の絵入り正教週刊誌『ロシアの巡礼者』の論調や、大手出版社ソイキンの支援による購読者数の増大からは、先行研究が想定した以上に、近代ロシア社会の読者大衆のあいだで信仰と伝統的価値観が影響力を持ち続けていたこと、そして、そのような側面を含めて包括的に公論の形成を分析する必要があることが明らかになった。
|