研究課題/領域番号 |
25770263
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 創 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (50647906)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ローマ帝国 / キリスト教 / 歴史叙述 / 修辞学 / 貴族 / 神殿 / 天使 / 修道院 |
研究実績の概要 |
本年度は主として以下の三点を行った。(1)2014年度の学会報告を加筆・修正したものの公表。(2)ローマ帝政後期の諸都市における天使崇拝の普及とその社会的背景の分析。(3)ギリシア弁論家リバニオスの残した書簡史料・弁論史料のテキスト分析。 第一点目に関しては、‘Orthodox Emperors and Propaganda’の論考で、テオドレトス『教会史』の歴史叙述を分析した。「史実」を抽出するための歴史史料としての価値が低いと見なされてきた同史料に対し、本研究では著者の置かれていた教会政治の文脈の中で『教会史』が書かれたという仮説を史筆の分析を通して提示した。それは同時に、ローマ帝政後期における歴史叙述活動がいかなる社会的文脈、目的で行われていたかを問い直すものとなった。また、‘Some ‘Asian’ Aspects’では、貴族制の捉え方について、中国史とローマ史において類似して見られる中央と地方の関係性を素描した。 第二点目に関しては、天使の名を冠する建築物に着目して、後4-6世紀にかけての古典文献、教父著作、碑文などから確認される事例を収集した。小アジアでのユダヤ教徒と「多神教」との接触が天使崇拝の交流をもたらしたという通説を批判し、むしろ、コンスタンティノポリスなど地中海の大都市で5世紀以降広範に確認される現象であること、そして、6世紀のユスティニアヌス帝の治世に象徴されるようにローマ皇帝の支援が大きな影響をもたらした可能性を示唆した。研究成果は‘St. Nicholas and Religious Landscape of Lycia’という報告で発表された。 また、第三については、‘Libanius’ Pro Templis (Or. XXX)’を発表し、限定的に公開されたにすぎないとされてきた弁論史料が帝国政府に対する積極的な発言であった可能性を問うた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度研究計画で述べたように、計画を若干変更して、第二年度と第三年度の分析対象を入れ替えていたが、それが功を奏し、今年度までに都市景観に関わる神殿・教会施設の建設や変容過程、また、それを叙述する歴史家の政治目的や意図にも目配りした形でのケーススタディを行うことができた。 また、今年度は成果報告という形にまでは至らなかったものの、いわゆるローマ帝国の「キリスト教化」言説に関して一次史料群をまとめて分析した研究成果も準備することができ、2016年度以降の出版に向けて準備中である。研究分析の主史料にあたる弁論家リバニオスの弁論史料や書簡史料についても関連文献の収集が順調に進むとともに、解析も大きな支障なく進められている。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で述べたように、研究計画は順調に進められており、2016年度では当初研究計画で述べたように、四年間の研究成果を総括し、論考として発表していくことが目的となる。主として弁論家リバニオスの弁論史料・書簡史料から浮かび上がるシリアの都市アンティオキアに関する研究成果を、雑誌論文などの媒体を通じて発表していくことが一つの方法である。また、分析過程で作成した資料翻訳・注釈を書籍の形にできるよう最終原稿の調整を行っていく。これについては、出版社の出版計画事情もあるため、年度内刊行はかなわない可能性が高いが、原稿に関していえば今年度の入稿は十分可能なものと見通している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度に新規発刊される高額の文献が出版情報から確認されたことから、購入計画を調整することにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
ローマ法史料関連文献の購入にあてる予定。
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