研究実績の概要 |
初期アメリカ(18世紀から19世紀前半のアメリカ合衆国)の女性の教育および権利論についての研究をおこなった。特に(a)1830年代までのフィラデルフィアにおける女子教育についての議論と実態、(b)ヨーロッパからの思想の流入がアメリカ建国期の女性に与えた影響、(c)大西洋を越えた外交問題や党派対立と「女性の権利」論との関係について、重点的に検討した。研究期間中に米国マサチューセッツ州のAmerican Antiquarian SocietyやMassachusetts Historical Societyにおいて資料調査を実施し、最終年度には英国ロンドンのBritish Libraryにおいてアメリカの教育思想や「女性の権利」論のイギリスからの影響について、パンフレット等出版物の調査をおこなった。 その成果として、建国期アメリカにおける女子教育論が英国の教育論から強い影響を受けたものであることを、アイルランド出身でフィラデルフィアで活動した出版人マシュー・ケアリーに注目しつつ、1780-90年代に出版された女子教育論についての英米比較によって明らかにした。最終年度の成果は、論文 “For the Progress of Knowledge and Virtue: The Acceptance of Mary Wollstonecraft in America in the 1790s,”(『鶴見大学紀要 外国語・外国文学編』第53号、2016年、41-59頁)として公表をした。 本研究の最も重要な意義は、建国当時の「女性の権利」の中心的なものであった「教育を受ける権利」がどのように議論され実現されていったのかを、大西洋をまたいで広まっていった「知」についての議論のなかで検討することによって、女子教育・女性史におけるグローバル・ヒストリーを提示したことである。
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