最終年度となる本年度は、これまで進めてきた、王政復古期イギリスにおける「アイルランド陰謀事件」に着目し、排除危機と大衆プレスの関係を検討した事例研究をまとめた。そこでは党派抗争の激化する時代の民衆の政治参加と初期公共圏のありかたや、直前の革命の記憶の問題が明らかにされた。これらをもとに複合国家ブリテンにおける「臣民」と「市民」に関する考察を深化させた。主要な成果は、道重一郎編『英国を知る』(同学社、2016年)所収論文「アイルランド陰謀事件と革命の記憶」として公刊された。
さらに、文化史の新段階ともいわれる「感情論的転回」に注目した共編著『痛みと感情のイギリス史』(伊東剛史・後藤はる美編、東京外国語大学出版会)が3月に刊行された。上記の排除危機の事例において「恐怖」や「怒り」といった感情は、人びとの経験と行動選択に大きな役割を果たしたと考えられる。同論集は、文化史的アプローチを批判的に継承しつつ、「痛み」と「共感」を軸に「感情」を実証研究にもとづいて歴史学的に考察することをテーマとした。後藤は、「第IV章 試練――宗教改革期における霊的病と痛み」「ラットの共感?」(以上単著)、および「痛みと感情の歴史学」(伊東剛史と共著)を担当した。すでに多方面から反応があり、今後の感情研究の可能性と重要性を確認することができた。
なお、これらの研究遂行のため夏期に渡英して、最終的な文献収集およびイギリスの近世史研究者との意見交換を行った。本年度の主要な研究費は、この海外出張費として支出された。
|