研究課題/領域番号 |
25770273
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
佐藤 公美 甲南大学, 文学部, 准教授 (80644278)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 南ティロル / アルト・アディジェ / アルプス / 中世アルプス都市 / 山間都市 / 貴族 / 政治的ネットワーク / 14―15世紀 |
研究概要 |
平成25年度は「中世アルプス山間都市と周辺地域の政治社会」の研究対象のうち①南ティロル(アルト・アディジェ)の「裁判区」に関する基礎情報の収集、②裁判区で活動する人々の政治的・人的ネットワークに関係する貴族の家文書、及び都市ボルツァーノの商業参事会文書、共同体文書の収集と分析・整理、の2点を中心に研究を進めた。9月にイタリアとオーストリアに渡航し、資料収集と現地の専門研究者との打ち合わせを行った。ミラノ大学では中世の貴族と農山村地域の政治史を研究する同大学講師アンドレア・ガンベリーニ氏と、近世グローバル・ヒストリーの専門家で歴史学の方法論的革新や日本の学会との交流にも取り組んでいるマリア・ベンゾーニ氏と打ち合わせを行い、本研究を活かした今後の国際交流について話し合った。次いでティロル州立文書館、ティロル州立博物館、ティロル市立博物館にて、南ティロル貴族の家文書の転写と写真撮影、及び絵画・建築・彫刻史料による情報収集と検討、地域史資料の収集を行った。ボルツァーノ県立文書館では商業参事会文書と共同体文書の転写と写真撮影を行い、同館文書館員で中世南ティロル史研究の専門家であるギュスタフ・プファイファー氏から研究上の助言を受けるとともに、最新の中世南ティロル研究について情報を収集した。メラーノ市立文書館では同館所蔵の公証人文書の概要について情報収集を行った。また、2014年3月にイタリア・トレント市のブルーノ・ケスラー財団イタリア・ドイツ歴史学研究所で開催された国際学会「中世後期から近世におけるアルプスの共同体と紛争」の準備について、同研究所のマルコ・ベッラバルバ氏及びアレッサンドロ・パリス氏と打ち合わせを行い、研究集会実行委員として活動した。10月以降は、9月の渡欧で収集した史料と文献の検討を進め、その成果を上記国際学会で2014年3月に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度末に予定されていた国際学会「中世後期から近世におけるアルプスの共同体と紛争」での報告を本研究の中間総括と位置づけ、今年度の研究対象とする史料群を明確に特定していたため、その収集と分析はおおむね順調に達成された。中世後期南ティロルでは都市が日常的紛争解決の舞台となり、そこでメラーノやボルツァーノの市民とともに貴族が活動することで、都市や裁判区を超えた人的ネットワークと問題関心を共にする空間の広がりが形成されていたことが明らかにされた。学会での口頭報告においては、史料から明らかにされた南ティロル都市の周辺に広がる人的ネットワークを、貴族層の転換期に形成される実践的政治空間という問題の枠組みの中に位置づけてまとめた。この視角は、同学会での全体的議論を通じて打ち出された、多様な文化的・制度的要素の共存と交流・重層性を重視する新しいアルプス史像に貢献するものとなった。ただし25年度に収集した史料の内、継続的に分析しデータベース化すべきものも残った。また、分析対象とした史料の中で重要なものが共同体文書(商業参事会文書は、本研究の対象とする時代に関しては事実上共同体文書と同類型の史料から成る)であったため、検討事例は紛争解決の事例を主とすることとなった。そのため、次年度の史料収集・分析の対象となる公証人文書を通じたより日常的な売買や交換に現れる人的結合の分析との相関関係の解明が必要であり、その結果に応じて再考察も必要となるだろう。イタリアでの研究打ち合わせの成果は同学会での成果発表と学会報告集の刊行予定(2015年予定)に具体的に活かされた。また、ここでの報告と議論によって、シンポジウムの開催などを通じて本研究の成果を今後国際的に展開する方向性も示された。
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今後の研究の推進方策 |
既に収集した史料の継続的分析に加え、メラーノ市立文書館所蔵の裁判帳簿群と公証人登記簿群の史料を収集・分析しデータベース化を進め、情報の総合を行うことが中心課題である。継続的に研究文献の収集と検討を進める。これまでの史料分析からは、山間地域の地形的条件と経済に規定された移動手段や課税に関わる問題が重要な課題の一つとして浮上してきた。この点にも注目しつつ、異なる史料類型間の情報の重なりと相違にも配慮し検討を進めていく。一方、2014年3月のトレントでの国際学会の機会に、ミラノ・ビコッカ大学講師マッシモ・デッラミゼリコルディア氏、及びアルプス史研究所のロベルト・レッジェーロ氏、京都大学の服部良久氏と、本研究課題に即した今後の研究協力の可能性についての話し合いを始めた。服部良久氏の科研「中・近世のアルプス諸地域におけるローカル・コミュニティと国家の比較研究」と協力し、マッシモ・ミゼリコルディア氏とのシンポジウムを行うことと、レッジェーロ氏の所属するアルプス研究所と議論を進めることを予定している。デッラ・ミゼリコルディア氏との意見交換を受け、実践的政治空間という本研究の視覚を、中近世の国家や共同体の枠組みに制約されない中間的な広域的政治空間との関係に結びつけて考察することを考えている。このような方向性を加味してゆくならば、トレントの学会で示された、アルプスの多様な文化的・制度的要素の共存と交流・重層性という見方は一層有効であろう。同研究集会ではボルツァーノ市立文書館長ハンネス・オーベルマイア氏との有益な議論を受けて、報告者は複数の有効な地域区分の同時使用の可能性を提示し、その一つとしてティロルからトレンティーノへと連続する地域におけるアルプス都市ゾーンという捉え方の有効性を提案した。これらの視角を総合的に活かしつつ、史料から浮上するネットワークの姿を分析してゆく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2014年3月の国際学会出張は、移動に要する時間を含めて3月26日出発、3月31日帰着の日程となった。そのため該当旅費264301円の精算が2014年度5月にずれ込んだ。 2013年度末の旅費は現時点で2014年度分支出として清算処理が済んでいる。2014年度に収集予定の未刊行史料は、現時点では自身のデジタルカメラでの撮影が可能であるため複写費は圧縮可能だが、今年度保存状態や筆跡について簡単な調査をした結果、転写に時間を用いることも必要であると判断した。これに対応する必要や、2013年度に発展した国際交流を継続的に進める必要を考慮しつつ、教育・校務に一定のエフォートが必要なため長期の渡航を複数回にわたって行うことは困難であることも踏まえ、2014年度は中・短期の渡航の回数を増やし、史料収集を効率的に行いつつ、現地の専門家との打ち合わせを密に行い、研究を進めたい。
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