研究課題
平成26年度は、以下の3本柱で研究を進めた。①本科研で扱う史料群の第2の柱である、メラーノ市立文書館所蔵の裁判帳簿群と公証人登記簿群の収集・分析・データベース化。②2013年度末に参加した国際学会「中世後期から近世におけるアルプスの共同体と紛争」の報告集に寄稿する英語論文の執筆、③平成27年度開催予定の、イタリアのアルプス史研究者マッシモ・デッラ・ミゼリコルディア氏(ミラノ・ビコッカ大学)を招聘したシンポジウムの準備、の3つである。①については、9月と3月にイタリアへ渡航し、史料収集にあたり、分析を進めた。その際、メラーノの公証人文書についての専門研究の実績をもつ文書館員のマルクス・ガンパー氏による研究上の助言を受けた。この研究では、裁判帳簿と公証人登記簿の関連を分析し、アルプスを越えた南北の文書と法文化の交流の具体相を明らかにした。②の英語論文執筆と入稿は平成26年度内に終了し、平成27年度中にイタリアとドイツで同時刊行される予定である。③については、イタリアで9月と3月にそれぞれマッシモ・デッラ・ミゼリコルディア氏と綿密な打ち合わせを行い、趣旨、内容、シンポジウム構成を確定した。
2: おおむね順調に進展している
国際学会「中世後期から近世におけるアルプスの共同体と紛争」における研究報告と報告集作成は順調に進展しており、最終編集作業と刊行を残すのみである。この報告と論文において、山と都市を結ぶ政治社会の一面を、山間の紛争解決における市民と貴族の共同行為から明らかにすることができたと考える。また、平成25年度末から26年度中に構想と準備を進めたマッシモ・デッラ・ミゼリコルディア氏の招聘シンポジウムの準備も順調に進行している。報告原稿は既に提出されており、それをもとに現在内容の調整をしつつ、国内から招聘する他の報告者との協議を進めている。ここでは資源と地域間関係の関係にも議論を進め、環境と人間のインタラクションの歴史学に、「山」と「地域」の視点を導入した議論が行われる予定である。メラーノ市立文書館での史料収集は、当初予定していた範囲のものについては概ね収集を終了することができた。即ち、1388年から1465年までの時期をカヴァーする裁判帳簿群と、14世紀末から15世紀前半、及び15世紀末の必要な公証人登記簿の撮影を進めた。これらの史料の分析の結果、ティロル南部における裁判帳簿の形式と内容の変化の概要を明らかにすることができ、公証人登記簿との関係を考察し、文書をめぐる地域の政治文化の発展を跡付けるための重要な基盤が得られた。この研究の成果の一部は、平成27年5月16日・17日開催の第65回日本西洋史学会大会で学会報告を行い、ついで学術論文を執筆する予定である。ただし、裁判帳簿群に関しては、これまでの分析から、地域の文書と法実践の展開過程がこの史料群の形式と内容の変化から明らかになったが、環境資源をめぐる法行為の検討には、帳簿内の膨大な記述のより詳細な検討が必要である。この側面を検討し、すでに検討を終えた共同体文書から得られた結果と総合することは、最終年度の課題である。
本研究計画の最終年度に当たる平成27年度には、メラーノの裁判帳簿と公証人登記簿の分析を最終的に進めるとともに、シンポジウムを開催し、まとめる予定である。公証人登記簿については、史料収集と分析の方法について当初の計画から一点計画変更を行う。平成26年度中の文書館調査によって、15世紀中葉から末にかけて、一人の公証人によって連続的に多くの公証人登記簿が残されたことと、公正証書の書式集と規範集が同文書館に保存されていることが明らかになった。これらの史料群は、本研究計画をさらに発展させた研究課題を導くものとして十分な価値を持ちうるものであり、かつ、本研究計画では想定していなかったメラーノの都市史料とクロスさせた検討に値すると考える。そのためこれらの史料については、別途分析のための戦略を再検討することが有意義であると考えた。また、これまでの文書館調査で、専門の文書館員の助言を受ける過程で、本研究課題の扱う裁判帳簿群はこれまで体系的検討の対象となっていないことや、公証人書式集や規範集がより厳密な分析を要する重要な史料であることが明らかになった。そのため、まずは裁判帳簿という史料類型の発展を地域の法文化の展開の中に位置づけるという課題を中心に据え、山間都市の意義の諸側面のうち、アルプス南北の法文化と文書文化の共存と相互補完関係の生成する場としての意義により多くの光をあて、裁判帳簿という史料の意義をより明確にするための分析に重きを置くこととする。
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