平成28年度の研究実績については、平成27年度までに得られたデータを補強すべく、内耳土鍋の資料調査とAMS14C年代測定と炭素・窒素安定同位体分析を目的とした付着物の収集を実施した。本年度は、東京国立博物館所蔵のサハリン島出土の内耳土鍋2点(完形資料)を実見調査した。実測データを取り、内耳土鍋の技術的・形態的特徴を分析した。また、分析用の土鍋付着物については、資料の修復時に生じた炭化物を提供してもらった。分析については、今後実施する予定である。 これまでの研究ついては、北海道オホーツク海沿岸地域、北千島地域、サハリン島で出土した内耳土鍋を中心に実見による資料分析を行い、従来から指摘されていた技術的・形態的特徴とこれまで指摘されてこなかった技術的・形態的特徴の比較検討を実施した。また、可能な資料に関しては、炭化した土鍋付着物を採取し、AMS14C年代測定分析と炭素・窒素安定同位体分析を実施した。 その結果、東北地方北部から北海道道南部に入ってきた内耳土鍋文化は、北海道最北端部である稚内へは11世紀前半~12世紀中頃には到達し、サハリン島には11世紀中頃には既に存在していたことが想定された。更にサハリン島における内耳土鍋分布の最北端地域にあたるポロナイスクへは13世紀代には到達していることがわかった。本研究により、サハリン島の従来の年代観が古くなることが判明した。また、内耳土鍋の技術的・形態的特徴の分析では、特徴差と年代差に関連性が薄いことがわかり、今後は地域差の可能性も含めて検証する必要があると考えた。
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