今年度は実に重厚で多彩な研究を実施しえた。 研究計画に即して記すと、「(A)列島における古墳時代の銅鏡の悉皆集成とデータベース・集成表の構築」は、従来の研究を大きく凌駕する成果を挙げた。これまで5300面程度とされていた弥生・古墳時代の出土鏡を6200面余まで増やし、それらに関する多角的・網羅的な情報を付記した集成表を作成した。写真・図面資料も作成したが、著作権等の問題から、公表は差し控えた。 (B)古墳時代中期・後期の倭製鏡の編年と(C)銅鏡の分布の時期的変動の政治的背景の追究については、直接的な検討は実施しなかったが、面数などの緻密な統計分析を実行した。(D)小地域ごとの銅鏡流入の様相の分析と(E)首長墓系譜内での銅鏡の流入・保有の検討については、保有論を軸に据えた論文を投稿し、また当該テーマに関する依頼原稿を執筆した。(F)同時期の中国製鏡・韓半島出土鏡の検討については、春に韓国、夏に中国に旅行し、実物を実見した。とくに韓半島での実見は実りあるものとなった。 さらに銅鏡の流通・保有論をより多角的に昇華させるべく、文献史と考古学の双方からの鏡の流通の比較研究、出土人骨と出土鏡の相関関係の検討、江戸期における出土鏡の保有と流通など、従来にない(あるいは従来手薄な)テーマについて先駆的な研究を実施した。 最後に(G)成果報告書を編集・刊行については、以上の研究成果を盛り込んだ計1200頁に達する二分冊を刊行し、学界への還元をおこなった。
|