本年度は8月下旬から9月下旬にかけて、ペルー南海岸インヘニオ河谷上・中流域においてセトルメントパターンの変遷を把握するための遺跡踏査を行った。前年度におけるカンパナユック・ルミ遺跡の発掘成果からは、形成期後期(紀元前800-250年)にペルー南海岸から中央高地の神殿へと人々が巡礼に訪れていたことが示唆されており、山地で始まったアンデス文明の初期形成に海岸の文化が関わっていたことが明らかとなった。 本年度の研究では、当該地域において81の遺跡の踏査・登録を行った。その内、7つの遺跡が対応する時期のものであり、小規模な遺跡がインヘニオ河谷上・中流域に存在することが明らかとなった。前年度の調査で得られたデータとあわせると、海岸部の大神殿を持たない小規模な社会が、高地の大神殿であるカンパナユック・ルミを訪れたという仮説を補強するデータであるといえる。また、形成期以降の時期に関するデータも数多く得られており、今後の研究において、パラカス期(紀元前800-紀元前後)、ナスカ期(紀元200-600年)、ワリ期(紀元600-800年)、イカ期(紀元800-1500年)という2000年以上にわたる同地域の社会変化の動態を考察するための基礎資料となることが期待できる。 また並行して米国イェール大学、ペルー国立サン・アントニオ・アバド大学主催の黒曜石分析ワークショップにおいて前年度出土資料の分析を行った。その結果、高地の黒曜石が海岸部の社会にもたらされていたことが明らかとなった。また、山形大学高感度加速器質量分析センターとの協力によって得られた絶対年代のデータによってその時期が紀元前700年にさかのぼることが示唆された。ペルー南部における海岸と高地の間の遠隔地交流の活発化が高地での神殿社会の発展に寄与したことを示す重要なデータである。
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