本研究は、これまで客観的なデータによって整理されることのなかった平安期緑釉陶器の釉調の色彩学的検討を包括的に行ったものである。緑釉陶器の生産は、東海、近江、畿内、防長という4地域で行われ、産地ごとに釉調と胎土の特徴の違いが指摘されており、釉調や胎土色などの、色調の情報も産地を知るための重要な要素となっているが、紛らわしいものも多い現状がある。こうしたことから、筆者は平安期の緑釉陶器の色彩学的検討を行うことにした。筆者の研究は、2012 年に発表した京都府亀岡市の篠大谷3 号窯出土の緑釉陶器資料の整理を出発点としているが、今回はこれを進めて、釉薬のテストピース作成による原料と釉の発色の復元的実験を行うとともに、産地資料の色調データを蓄積し、器械計測による分光反射率の分析によって比較を行った。 最終年度の資料調査では、防長産の平安期緑釉陶器の色調計測に加えて、山口県長登銅山文化交流館で所蔵する長登銅山の銅鉱石の測定もさせていただいた。これらのデータを比較すると、色を示す分光反射率のグラフから、原材料や焼成状態についても迫ることができるのではないかという想定をすることができた。 焼成実験では、平安期緑釉陶器とは焼成温度や材料など同じ条件ではなかったが、銅や鉄の釉薬の特徴を検証することができた。また実験で製作したテストピースは、コンピューターで温度制御をされた小型電気窯という安定した環境で焼成した条件にもよるが、同じ材料で焼成をすれば、同じ成分が一定の反応を起こし、同様の分光反射率のものを再現できることも検証できた。 今後は、今回不十分であった実物資料の資料調査を増やし、分光反射率の分析を通して、産地を特徴づける釉薬原料や焼成条件を反映するような特徴を見つけたいと考える。もちろん分光反射率の分析のみでなく、成分分析やそれらの構造の分析なども行い、検証も行いたいと考える。
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