研究課題/領域番号 |
25770289
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菊地 大樹 京都大学, 人文科学研究所, 研究員 (00612433)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 馬 / 殷周王朝 / 馬匹生産 / 動物考古学 / 食性分析 / 国際研究者交流 中国 |
研究実績の概要 |
本年度も、殷周王朝関連遺跡より出土した馬骨の実地調査をおこない、形態学的データの集積に努めるとともに、馬銜(ハミ)の痕跡といった、使役にともなう形態変異部の特定を目指した。また、古典籍や出土文字資料にみられる、馬匹生産関連の記述の整理をすすめながら、人為的な飼養管理の実態解明にむけて、同位体分析を利用した新たな分析手法の確立を試みた。 実地調査では、陝西省考古研究院の協力のもと、少陵原西周墓地遺跡(西周)、空港緑地新城祭祀坑(戦国)、景帝陽陵陪葬墓車馬坑(前漢)の3遺跡から出土した馬骨の分析を実施した。少陵原西周墓地遺跡の資料はすでに分析をすすめていたが、再観察したところ、新たにストレスマーカーの指標である「柵癖」と考えられる痕跡を確認した。すでに、前回の分析で飼養管理されていた可能性が想定されていたため、柵癖の痕跡はそれを補強するものとなった。 このほか、試験的に実施した骨コラーゲンの炭素同位体比による食性分析から、自然放牧では摂取することがない、粟や黍といったC4植物を大量に給餌されていた値を示す個体が確認でき、人為的な飼養管理が強く想定されていた。しかし、骨コラーゲンの分析では、生存期間において摂取した食物の平均値を知ることしかできないため、いつから、どのようにC4植物を摂取していたかを議論することは難しかった。そこで、形成時期と萌出時期について先行研究のある馬歯のエナメル質に注目し、新たな分析手法の確立を模索し、歯エナメル質のハイドロキシアパタイトの炭素同位体比を分析することで、成長過程における給餌実態の復元を試みた。そうしたところ、出生時の0歳から成獣となる4歳までの期間における食性変動を捉えることができ、古典籍、出土文字資料によって断片的にしか窺い知ることができなかった、中国古代王朝による馬の飼養管理実態をより詳細に描き出せることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、引き続き基礎データの集積に努めるとともに、新たな分析方法を確立し、西周王朝から戦国時代の秦国における馬匹生産体制の様相を明らかにすることができ、それが漢王朝において確立したことを確認できた意義は大きい。こうした新知見については、国内外の学術雑誌や学会にて発表し、高い評価を受けることができた。このことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの分析報告については、研究協力機関である陝西省考古研究院と協議し、学術雑誌や報告書にて公開する予定である。実地調査については、対象地域を周辺へ広げ、比較データの集積に努めるとともに、新たに確立した分析による新知見について、今後、古典籍や出土文字資料の対比をさらに進めていき、馬匹生産の復元に努める。
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