平成27年度の研究では、大宰府の鉄素材入手経路の一つである製鉄工房について、九州北部を対象に検討した。具体的な検討方法は、製鉄炉の築炉技術に比重をおいた分類を試み、各遺跡間を横断する形で製鉄炉の変遷を検討した。あわせて、遺跡形成過程をふまえた上で製鉄工房の立地を検討し、山林利用の様相も把握した。本研究成果は、論文「九州北部の鉄生産」『田中良之教授追悼論文集』(2016)にまとめた。 この研究と並行して、『日本書紀』や『続日本紀』記載の集団戦闘(戦争)記事の検討から、兵器の運用についても研究を試みた。また、大宰府の軍備を特徴づける古代山城についても論を進めた。これらの研究成果については、発表「兵器の様相から見た古代山城」『築城技術と遺物から見た古代山城』(2016・2)、発表「古代兵器から迫る!」『シンポジウム大城(大野城)の謎に迫る!』(2016・2)で公表した。 平成27年度は本研究課題の最終年度となるため、平成25~27年度に実施した研究を総括し、研究成果報告書『大宰府の軍備に関する考古学的研究』を刊行した(2016・3)。本報告書は4部構成となっており、「第1部 研究の目的と経過」・「第2部 大宰府の鉄・鉄器生産」・「第3部 大宰府の兵器」・「第4部 総括」として、これまで公表してきた論文・学会発表を編集して報告書にまとめた。 研究成果報告書の刊行に加えて、九州国立博物館にて『シンポジウム 大城(大野城)の謎に迫る!』を開催し、本研究成果を広く国民に公開するとともに、研究成果の検証を関連分野の他研究者も交えて公的に行った(2016・2)。本シンポジウムでは、300名を超える参加者が集まり、討論でも活発な議論が展開された。
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